汗顔! 上司と部下、一夜の過ち?(6)

 造船所跡地近辺、一拓いったくにとっては見知った道。コンビニまで自転車でいって帰って二〇分とかからなかった。

 さて買ってきた朝食を、ふたり事務所で黙々と食べ、いよいよお待ちかねのデザートタイム……なのだが。


「何だこれは」

 冬羽とわは、リクエストしたプリンをひっくり返して不機嫌な顔。

「カラメルが入っていないじゃないか」

「はぁ……すいません」

 だって、それしか残ってなかったんだよう。


「カラメルが入っていないだと?

 カラメルが入っていないプリンなんて……カラメルが入っていないプリンなんて……

 まあいい」

 ちょうどいいたとえを思いつかなかったらしい。

 黙り込んだと思ったら、やおらフタをぺりぺりとがして食べ始めた。食べるんかい。

「農家の方が一生懸命作ったものを、粗末にはできないからな」

 材料はそうでも、製品は工場でだと思いますよ?

 あと、カラメルの入っていないプリンにもたまには優しくしてあげて?


 食後のお茶(一拓いったくはコンビニで買った微糖の缶コーヒー、冬羽とわは給湯室でれたティーバッグの紅茶)で落ち着いたのか、冷徹な上司は少しばかりの慈悲を見せてくれた。

「……そうだな。ここの案内くらいはしておいてもいいか」





 ひと気のない廊下を、冬羽とわの後からついていく。

 一階で使っているのは、事務室、宿直室、給湯室、医務室、トイレ。

 医務室の主であるなでこ先生は、まだ出勤していない。おとといも来ていなかったし、今日も欠勤だろう。


 空き部屋ばかりの二階、三階はすっ飛ばし、もちろんエレベータなどないので階段を登って、次にふたりがやってきたのは最上階の四階だった。

「ここは、所長室」

 中へは入らなかった。

「所長は海外出張中だ。帰所は未定だが、来週以降になる」

 まあ、そんな偉い人に顔を合わせる機会も滅多にあるまい。


「ここが最後。コントロールルームだ」

 と、連れてこられた扉の前。

 部屋の中から、なにやら話し声が聞こえる。


「……へえー、これ、ビンタじゃなくって掌底しょうていだったのか」

「わたしが組んだやつですよ」

「最後の投げ技、一本背負いが変形したんだな」

「永井センパイの担当ですね」


 会話の切れ間を待つようにドアをノックして、冬羽とわが声をかけた。

「失礼します」

 入室すると、デスクトップPCのディスプレイに見入っていた白衣の男女がふり返った。

「あ、冬羽とわさん」

「おはようございます」

 永井と横山だ。


「お邪魔してすみません。彼が、休みなのに出てきたので、ついでにここの案内をしているところです」

 冬羽とわのことばにふたりは顔を見合わせたが、「ゆうべはお楽しみでしたね」などと冷やかすこともなくスルーしてくれた。


「いえ、こないだのログを見ていただけですから」

 永井がキーを叩くと、画面はテキストの羅列から映像に切り替わった。【ゴダイヴァ】各所に設置されたカメラで撮影したものらしい。


 カメラが【サダ子】に寄る。

 戦闘終了後、残骸を回収する光景が映っていた。

 それを見て、冬羽とわは何かを思いついたようだ。


「喜ぶがいい。キミにしてもらうことが見つかったぞ」





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