多辱! 嵐の中の初出撃!(5)
【ゴダイヴァ】はくり返し倒され、倒されたらまた立ち上がり、ようやく【サダ子】に肉迫した。
しかし、状況は
いまは右手で髪の毛(触手)をひっつかみ、左腕は相手を押しやるように突っ張っているだけ。向こうは向こうで棒立ちのまま、触手しか使ってこない。
嵐の海を舞台にくり広げられる、巨大存在同士の戦い!
東宝円谷特撮から『パシリム』に至るまで激戦、名勝負の目白押しだ。
それに引き換え【ゴダイヴァ】vs【サダ子】ときたら、まるで素人のキャットファイトではないか。もちろん安っぽいキャットファイトからしか摂取できない栄養分も存在する、それは否定しないけれど。
さてコクピットの中では――――操縦しないのに「
ゲージの光がいまにも消えそうにまたたいていた。
『【ゴダイヴァ】、バッテリーがもうありません! 緊急脱出の用意を!』
女性オペレータからの切迫した指示。
しかし、まるで聞こえないように、濡れ透け長身女上司は
「時間がない! 早く! 早く私を! 恥ずかしめてくれ、さあ! いますぐに!!」
食い込むパイスラッシュならぬ
痴女か? 痴女なのか?
「いや、え? ちょ、な……」
ああ、われらが主人公に迫る魔の手!
……だがその手は目前で止まった。
痴女(?)は口を中途半端に開き、目を閉じている。
間をおいて、
「っくちゅ!」
かわいらしいくしゃみ。
「ぴきちっ! ぁ……ちゅ! んあ、あ……ぷっちゅ!」
立て続けである。
「ぬ、濡れたままじゃ、カゼひきますよ?」
われに返った
決して他意はない。水をぬぐうなり、肩にかけるなり、少しでも体を冷やさないように、と。ただそれだけだった。
この緊急時に、みずからを
いいたいのだが……手近な布とはつまり腰に巻かれたバスタオルであり、その下は……
「んなにゃぎゃあああ!!」
まさかパンツ(もちろんこの場合は下着の)まで脱がされてるとは思わないんだよなあ!
かてて加えて密室に女性とふたりきり。肌を寄せ合い、透けブラ(黒)まで目撃。
思いのほか男児が
ひとことでいえば、見せられないよ!
そのときだ!
弱々しく明滅していたゲージがしだいに輝き始めたのは!
刻まれたラインをたどって光が走る!
あるいは同じ方向へ! あるいは互い違いの逆方向へ!
光は分岐し、収束し、謎の幾何学図形が完成した!
ヴオオオオオー……ンッ(ンッ(ンッ)
嵐の海に
たっぷりしたディレイが効いている。音響監督がいたならここは腕の見せどころ!
鳴りやまぬ残響の中、【ゴダイヴァ】は右腕に力を込めた。
左、右。【サダ子】はなすすべもなく振り回される。
その顔面へ、カウンター気味に、
ゴワアォオオンッ!
カチ上げるようなビンタが叩き込まれた!
ビンタでは飽き足らぬというのか、さらに振り回す!
存分に勢いのついたところで、背負うようにして投げ飛ばす!
【サダ子】は宙を舞い、盛大な波しぶきを上げて、背中から海面に叩きつけられた。
「やった! やりましたね!」
「ああ、やったな」と、こちらも白衣に眼鏡の男性が答えた。ふたりとも【ゴダイヴァ】と交信していた声の主だ。
「……しかし、アンコントローラブルってのも意外と厄介だな」
つぶやいた男性に、
「AI、何考えてるのか見えないですもんね」
女性はうんうんと同意する。
スピーカーから漏れ出たやり取りを耳にして、
「……終わった……んです、か?」
爆発でもすればわかりやすかったんだが、しなかったんだからしょうがない。
とにかく、何もかもがわからない。全然わからん。
わからなすぎる表情の彼に、隣から長身痴女上司いわく。
「そういえば、自己紹介がまだだったな」
「……………………」
あまりにもいろんなことが起こりすぎて、それどころじゃないだろうというツッコミさえ出なかった。
沈黙は、同意とみなされたらしい。
「私は
【ハイシャイ・ラボ】のお客さま対応部部長で、キミの直接の上司に当たる。総務部と経理部の部長も兼任している」
特に本人の明かさなかった情報として、身長一八四センチであることも記しておこう。四捨五入しても切り捨てても一八〇台、そんな数字だ。
痴女かどうかは、いまだ不明。
白いワイシャツを肌に貼りつかせたまま、
「【ゴダイヴァ】は、恥のエネルギーで動く」
次いで、
上司らしく、キリッとした表情で
「これからも私を恥ずかしい目に会わせてくれ。頼むぞ」
頼まれちゃったよ……。
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