多辱! 嵐の中の初出撃!(4)

 ――――われわれの世界が何者かに侵略されているのか?

 これは訓練でもリハーサルでもないのか? おおわれた日常という名のヴェールを勢いよくがしたら戦いのかねが鳴るのか?!


「なっ……何なんです、あれは?」


 湾内に突如出現した【敵】。

【ゴダイヴァ】も格納庫ハンガーから海へ踏み出したいま、彼我の距離は百メートルを切っている。その姿は、嵐の下でもはっきりと見分けられた。


 女性型で、サイズも体形も【ゴダイヴァ】と似通っていた。

 大きな特徴は、頭部に備わった無数の多関節マニュピレータ。ひらたくいえば触手で、となれば「メデューサ」とでも命名したくなるところだが……。


「……さだこ……?」


 一拓いったくがそうつぶやいたのは、長い触手が頭上でうねうねせずだらりと垂れ下がっている点、手探りするようにのろのろ歩くゾンビめいたようす、逆テーパー状に広がった前腕部、そして白いボディカラーによる連想だったが、


『サダ子! それいただきです!

 今後、対象を【サダ子】と呼びましょう! いいですね?』

 と、男性オペレータ(?)の賛同を得ることとなった。しかし、いいですねっていわれてもねぇ。


 一方、迎え撃つわれらが【ゴダイヴァ】はといえば――――。

「うわあああ!」

 激しく揺れる室内に、一拓いったくの悲鳴。

 はがねの未亡人、海へ踏み込んだはいいが、波に足をとられて危なっかしいったらない。まあ初出撃の失態もお約束ではある。

 それでもなんとか両腕でバランスを取りながらよろよろと歩を進め、ついに両者は対峙たいじした。


【ゴダイヴァ】は右端、【敵】は左端。

 ここはアス比二.三五:一の東宝スコープだと思っていただきたい!


 間合いを詰めるべく、なおもじりじりと前進する【ゴダイヴァ】。

 低く構えた前傾姿勢は、よくいえば初代ウルトラマン(Aタイプ)的だがその実、腰が引けているようでもある。

 対戦相手に目立った動きは見られない……かと思いきや、


「ぐわあああ!」

【サダ子】は水面下に触手を伸ばしていたのだ。

【ゴダイヴァ】は脚をからめとられ、高速度撮影のようにゆっくりと、波間に没した。

 蛇足ながら、高速度撮影は高速で撮影した素材を通常速度で再生する技術です。早送りじゃなくてスローだよ。ならスローって書け。


「ちょ、ヤバくないですか? このままじゃやられちゃいますよ!」

 グルグル目の一拓いったくに、女上司は涼しげな顔。

「落ち着け。いや、落ち着かれても困るが、恐れてもらっても困る」

「いやいや、ふつう恐れません? ていうか、さっきから何もしてなくないですか?」

 一拓いったくのいうとおりである。

 女上司はぴったりと体をくっつけているだけで(シートベルトで固定されているからしょうがないが)、せっかくのコンソールパネルに手を伸ばす気配さえないのだ。


「早く、防御とか攻撃とか必殺技とか? 何でもいいから操縦してくださいよ!」

 しかし彼女は首を横に振った。

「それはできない」

「どうして?」

「【ゴダイヴァ】は自動操縦……つまり、AIが動かしているからだ」


 その説明に、男性オペレータがフォローを入れる。

『人間がロボットを操縦する場合、状況を目で見て確認し、採るべき行動を選択し、複雑な操作を入力することになる。

 けれど、それには一定の時間を要するし、ミスする可能性は無視できないほど大きいんだ。

 AIならそれらすべてを一瞬でおこなえる。その上、判断は適切で動作は正確――少なくとも【ゴダイヴァ】の操縦に関しては、ね。

 それが理由だよ』


「……なら、どうして僕らが乗る必要があるんですか」

 当然の疑問だ。

 女上司の答えは、こうだった。


「動力源だ」


「え?」

 まるで「イルカは哺乳類だ」とでもいうように、彼女はいい直した。

「私は【ゴダイヴァ】のガソリンなんだ」





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