　娘としてではなく、一人の女としてあなたに尋ねたいことがあります。なぜ、あなたは母の事をあんなにも苦しめてきたのですか。金、女、酒と絵に描いたような失敗をなぜ繰り返したのですか。これまで色々な話を母から聞いてきましたが、どれを取っても反吐が出る程最低な話で、筆舌に尽くし難いものがあります。ただ、私もすでに三十路を過ぎている身です。自分の親とはいえ、一夫婦のことに部外者が口出しするのは愚かな行為であることくらい理解しています。二十歳の頃はただ単純に怒りや悲しみに打ちひしがれていたものですが、年齢を重ねるにつれ、私は男女のからくりについて次第に冷静な目で見るようになってきたように思います。でも、私が二十八歳の時にあなたに三十一歳の彼女がいると聞いた時はさすがに耳を疑いました。おまけに珍しく私と食事に行く約束をしていた日、その当日に急遽その女とのデートを優先し、迎えの為にあなたの家に無駄足を運んだ私に謝るどころか、ばかみたいに優しい物言いで汚れの溜まった部屋の掃除を指示するとそそくさと出て行きましたね。あの時は本当に呆れてものが言えませんでした。

　後日、この話を母にすると「そんなもんよ、男なんて」と母はさらりと言ってのけました。この時、ずっと引きずっていた両親の離婚に対する悲しみがきれいに消え失せたのを覚えています。しかし、あの相手の女もまた最低でしたね。貢がせるだけ貢がせて、金が切れたらばっさりとあなたのことを切り捨てた。大して美人でもないのによくやります。なぜ、あんな女に引っかかったのですか。なぜ、金目当てだと見抜けなかったのですか。なぜ、娘の私よりあっちの女を優先したのですか。その日暮らし同然のあなたから金をたかるなんて、そんな女と遊んで何が楽しかったのですか。本当に情けない。娘からこんなこと言われたくないかもしれませんが、あなたは女というものを全然わかっていない。美しく純朴で魅力溢れる猫の仮面を被った悪女はそこら中にいます。あなたはもっと深く知るべきでした。女という生き物のことを、もっと。

　でも私の目には、あなたはいつだって満足気で、陽気で、つつがなく過ごしているように映っていました。周りのことなど何も考えていないことが良くわかる程に。