第3話 『ジラあらわる』 その3
『みなさん。こにちは、こちらは、ジラ。当所の、気象情報をお知らせします。』
『なんだこれ。映像は、静止画で、森だけだ。』
山口さんが呆れた。
『気圧、1010ミリバール。気温29度。天気、はれ。してい、20キロメートル。おわり。こちらは、ジラ。繰り返します。』
『はあ。』
『山口さん。これ、昔の灯台放送に似てますよ。』
灯台放送とは、かつてあった、『船舶気象通報』のこと。
2016年に、終了したが、1670.5キロヘルツの中波で放送されていた。全国各地の灯台から、毎時、順番に放送されたのである。出力が小さいから、昼間は地元付近しか聴こえないが、夜になると、条件さえよければ、また、やや受信周波数帯域がひろめの、つまり受信可能なラジオさえ、持っていたら、全国各地の放送が聴こえたものである。『灯台放送』と、呼ばれたのである。
『……してい、20キロメートル。おわり。こちらは、ジラ。さようなら。』
『あ、終わった。』
『電波ジャックですね。』
画面は、また、千葉ワールドテレビになった。
相変わらず、はっきりしない映像と、アナウンサーの焦り気味のリポートが繰り返されている。
まあ、どちらも、似たようなものだ。
しかし、15分後、同じ放送が、また繰り返されて、以降、15分おきに『気象通報』が行われた。
『なんだ。これは、ジラって、なんだろう。』
『さて。でも、やがて、わかるような気がしますね。昔の映画もそうだったし。いんで、いんでぺ、なんとか。』
『インデペント、す? デイ、とかか。』
『それです。』
『ふるいな。』
『ふるいですよ。ぼくは。』
『まあ、遺跡、発掘してるものな。』
『そうですね。』
なんだか、お互いに納得してしまったのである。
しかし、その時は、さして先ではなかったのだ。
🕰️
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます