第2話 『ジラあらわる』 その2


 ジラは、忽然と、現れた。


 ぼくは、房総半島南端にある、新発見の縄文遺跡発掘現場にいた。


 まりこさんは、その時は、たまたま東京都内のお屋敷から、信州の別荘に遊びに行っていた。


 ちょうど、関東大地震が起こった時間辺り。


 つまり、昼少し前だ。


 東京が、消えた。

 

 きれいさっぱり。


 そうして、ジラが現れたのだ。


 ジラの外周部分は、深い森と、かなり広大なお堀に囲まれているため、ジラの内部は、外からは見えなかった。


 しかし、その時は、まだ、なにもわかっていなかったのである。


 ぼくは、発掘の指揮を取っていた、助教の山口さんに呼ばれたのであった。


 『これ、みろ!』


 『なんですか?』


 デジタル小型テレビに映っていたのは、東京湾上空からの、いかにも怪しい映像だった。


 『なんです? これは。』


 『千葉ワールドテレビ放送の映像なんだ。東京が、いなくなったらしい。代わりに、森ができたみたいだ。』


 かなり遠目で、上空からアップしていて、さらにやたら映像が悪くて、新潟地震のときの映像みたいに分かりにくいが、なるほど、首都方面には、緑の森が、だんぜんと、聳えているように見えなくもない。


 『なんでも、アクアラインから向こうにいた船も自動車も、飛行機も、人も、みな消えたらしい。さっき、防衛隊のへりが突破を試みたが、やはり、そこを越えたとたんに、消えた。とか。』


 『うや、ばかなな。』


 『うんだ。しかし、消えた。通信もできないとか。都内には電話も無線も通じないとか。放送網も、消えた。たしかに、ラジオも、まるで入らない。横浜からは来るがな。こんなぐあいで、映像もはっきりしないみたいだ。』


 『たしかに。はでに、ぼやけてるなあ。もしか、直下地震とか?』


 『なら、ここも揺れるだろ。地震で森ができるか?』


 『新型直下地震?』


 『あほか。』


 『核攻撃ですか?』


 『あほか。なら、分かるだろ。』


 『まあ。そうですね。なら、なんですか?』


 『さあ?』


 『あほですか。』


 『すまん。』


 山口さんは、あっさりと、謝った。


 しかし、その時をめがけたように、テレビがまるで違うことを、言い始めたのである。


 『まなさん。こにちは。こちら、ジラ。ジラ。はじめてまして。』



       💁

 


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る