第4話

人間の三大欲求は食欲、性欲、睡眠欲。鈴森仇花にはこれに加えて「加害衝動」と「殺人欲求」の二つがあった。なかでも加害衝動は彼女の原点ともいってもよく、殺人欲求もこれから派生した


生物の肉体を見れば、どこをいたぶれば最も苦しむかがわかる。彼女を常に人をいかに苛むかを考えて生きてきた


彼女の両親がその特性に気付いて早めに精神科にいかせればよかったものの、実の母親はアルコール依存症、父親は失踪ときて誰も彼女の異常性に気付けなかった。むしろ、母親は仇花を自分の客相手に売春させようとしたり、彼女の憎しみを更に加速させてしまった


最初は蝶や百足などの節足動物から始まり、次にハトやカラスなどの小さい動物、ネズミなど哺乳類に走れば、当然次は…といった具合で彼女の猟奇的好奇心はとどまることをしらない


彼女の深紅の瞳が獲物の血を映す時、少女は大変うれしそうにそれをバラバラに解体していく、解体した四肢が腐敗を得て骨に変わるのが妙に美しく見えて、得も言えない快感だった


今回の獲物は隣人である美形の中学生。凌辱したあと殺すことになるだろうがその臓腑はどんな色なのだろうか、血はどんな味なのだろうか。今から彼女は楽しみでしかたなかった


「よし、ばれずに運べたわね」

「う、うん」


6階にある空き部屋。元住人が自殺したらしく、掃除もままならず新たな居住者も来ないこの部屋は多少当時の状態が残っていて気色が悪いとはいえ、人目につかないここは少女二人の悪童にとって大変よい遊び場になっていた


「さてと、ここに降ろして…どうやって遊ぼうかしら。強姦するのはいいけどやっぱり痛めつけながらシないと楽しくないわよね」

「まず助けを呼ばれないように、口を塞いだ方がいいんじゃない?」

「それもそうね」


愛奈がそう提案する。人気があまりない六階とはいえ大声で叫ばれたら誰かが気づくかもしれない。猿轡を噛ませてその時にちょうどいいと仇花は、竜蔵の長い銀髪を彼女とおそろいのツインテールにした


「これでよしと、うんとってもかわいい姿ね。これなら楽しめそうだわ」

「えーっとこれからどうするの?」


愛奈の方は経験がなく、レイプするといっても何から入るのかわからなかった。無理もないまだ12歳である


「まずはこの金持ちのボンボンの制服をぬがしましょうか」

「わ、わたしはこの服のままの方が好きなんだけど…」

「口答えする気?脱がすと言ったら脱がすの。ハサミで服ごと切り裂いてもいいのよ」


西宮学園の制服は有名ブランドのものを使った豪華な造りとなっており、白いセーターを着こなした竜蔵は妖精のような容姿と相まって傾国ともいえる美に仕上がっていたが、仇花は彼の裸が見たかったため拒否した


スルスルとまるで着せ替え遊びをするがとく気絶した竜蔵という人形から服をはぎ取っていく、あっという間に珠のような肌が露出した


普段不健康に見える病的な白い肌は、久しぶりに感情を露出したことで火照ったのか血色がよくなっており、月の色人いろびともかくやといった絶世の美が少年の裸身に現れていた


「くふふ…これこれ。わかってない連中はセックスする男に逞しさや男らしさを求めるけどね、相手を支配できない関係に意味なんてないわ。それに、華奢な体を強引に犯すのが楽しいに決まってるじゃない。これでアタシらより年上の中学生ってのがはいとく的でステキだわ」


小柄な体は、小学生である自分でも与しやすく思えた。少女のような可愛らしい顔立ちは、どこまでも獣欲を誘った。支配者と被支配者、加害者と被害者。鈴森仇花の世界において人間の関係はこの二つでしか表せない


だからこそ竜蔵は最高のターゲットだった


「仇花ちゃんはハイムラのことずっと狙ってたって言ってるけど、いつからなの?」

「あぁ?それはもうここに越してきてからよ。初めて見た時の衝撃をあんたにも分けてやりたいぐらいだわ」


鈴森仇花と千崎愛奈は何も昔から知り合いの、幼馴染でもなんでもない。愛奈に至ってはこのマンションの住人でもなかった。おととしの暮、非行が原因で愛奈が家を追い出され彷徨い歩くうちに近所の公園で仇花と邂逅かいごうし、そこから友人となったのだ


もとより悪性のあった二人はすぐに意気投合し、愛奈を同じ部屋に住ませ、悪徳の限りをつくすようになった。動物殺しも加え、公共物の破壊、万引き、知り合いの少女をダシにしたポン引き、美人局つつもたせのようなものをやったこともある。騙された男側が悪いとはいえ、この少女二人は男というものはすべからく醜いと考え、存在しない、あるいは自分に暴行を加える父を憎んでいた


だからこそ竜蔵のようなある意味対極に位置するそのような存在が必要だったのだ。母性もあり彼女らにとって存在しなかった通常の父性も与えてくれるそんなアンビバレントな存在が、自分たちを救う鍵だと思い込んで


「はぁ、はぁ…」


そして、興奮のまま仇花は吸い寄せられるように少年の薄い桜唇に接吻をしていく。身の着を剥がれた竜蔵はさながら貧乳の美少女と呼んでも差し支えないビジュアルであり、これを自分が独占できるという圧倒的な優越感が彼女を満たす。隣の愛奈がうらやましそうに、熱烈な口付けをする仇花を見ていた


「アタシのものだ…!アタシの…」


自身も服を脱ぎ、覆いかぶさるような形でそのまま体を重ねた。最初は軽く啄むようだったキスが貪欲に貪るような形へと変化していく。独占欲もあるが何より昂り切った性欲が歯止めを失っていた


僅かに残った理性が彼女の中で警鐘を鳴らす。“これ以上は抑えきれない”と、だがそんなことは関係なく彼女は傍にあった包丁で大きく竜蔵の、その柔らかな肌を突き刺した


「がぁぁぁぁぁぁっ!!!」


途方もない痛みで竜蔵は目を覚ます。絶叫と共に目を見開くとそこには獣がいた。自分に裸で覆いかぶさるそれは、血塗られた工具を手にしてまさにこれから獲物を解体するような目つきで彼を見ていた


加害欲求


説明したように彼女の性欲には他者を傷つけないと満たされないサディズムが根底にあった。だが色情だけでなく彼女の原点にある“愛”そのものが暴力だったのだ


ある時、彼女は母に聞いた。「なぜ殴るのかと」

ある時、彼女は自身を犯す客に聞いた。「どうして暴力を振るうのかと」


両者の返事は同じだった。「それは愛のため」だと、力でねじ伏せてしまえばだれでも言うことを聞く。心から欲しいものほど力づくで奪う、魂から愛おしいものほど自分の手で支配する。つまり、愛情の裏返しなのだ。相手が好きで欲しいからこそ、暴力という形が必要なのだ


愛は痛み、彼女は目の前の少年を恋して、愛しているからこそ、自分から逃げられないために、暴力という楔を使う。まさに正真正銘の純愛だった。興奮が臨界点に達した彼女はそのまま竜蔵の肌を切り裂き続ける


「あぁこの眩暈めまいがするほどの良い匂い。ずっとこうしてお前を抱きたかった。お前のミルクよりも甘ったるいこの桃のような香りを血の臭いと混ぜ合わせたかった」


痛みによる条件発射で出来上がった少年のものと、すでに万全な状態の自分の物とで重ねわせる。儚いものほど愛くるしいとはこのこと、陰惨な痛みでついに声も出せなかった姿の彼は男でありながら女神といった美だった


これこそまさにOffrandes(捧げもの)。卓上に添えられた最高級の供物、自分という完璧な美少女が解体して、味わないと勿体ない存在だった


「料理を片付けるように、生には死があるように、美しいものにも終わりが来る。アタシはお前を見た時から恋して、愛して、そして、壊したくなった」


欲望のまま患部から血を啜ると、不思議なことにチョコレートのような甘い味がした。存在が甘美なものは血まで美味しいらしい。パーカーに返り血がつくのも構わず、棒切れのような体をまさぐって破壊していく。悪魔のような少女は思った。彼は、凌辱されるために産まれた生命なのかもしれないと、ならばこれは、正当な行為なのだ


かつてサディズムの祖、サドはこう言った


「血は最も残虐なイメージを鼓舞する、残忍な人間にとって拷問ほど大きな快楽もない。涙を見て楽しみ、悲しみを見ては興奮し、絶望を見てはさらなる逸楽と満足を、そして踊るような痙攣を見て、達する」


しからば色欲は生命の本質。情動は「凌遅の愛」でこそ証明される。相手を痛めつけない限り、真の欲望は満たされない


彼女の愛のセックスの形もまた別の観点から見れば真実なのかもしれない


だが、サドは主に身寄りのない少女や少年を相手に享楽に耽っていた


「何をしているの?」


その声を聴いた刹那、少女たちの肌が粟立つ。そう、彼には一応保護者がいる、絶対なる庇護天使がいる


開いたドアの外から、暗然たる部屋の中に一筋の金色がさす。そこにはまさに、竜がいた


輝くような金髪に、蛇のような瞳孔の小さい黄金の瞳


整った鼻梁も含め、聖女のような美貌だが他人を一切信頼していない怜悧かつ、本来の邪悪さが垣間見える獰猛な目つき。ふるまわれる所作も一見嫋やかだが、表情には冷徹さと確固たる怒りがある


威厳と狂乱が混ざったその姿はまさに絶対者。大悪たる、竜そのものだった。


榛村竜蔵の姉、榛村竜香


「私の弟に、何をしている?」


常日ごろから彼を凌辱し、管理下に置いている。本来の支配者が、悪魔の少女二人に明確な禍として降りかかろうとしていた




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ダークトライアド 黄田田 @yomiyasu357

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