第17話

卒業まで残りわずかとなった、ある日の学級活動の時間では、''将来の夢''というテーマで作文を書くことになっていた。


「まず今から30分間は、周りと話したりせず、黙って作文を書いてください。30分経ったら、友達や近くの席の人と作文を交換して、読み合いOKにするけど、自分の作文を読まれたくない人は、交換しなくてもいいです。くれぐれも、無理矢理 人の作文を読もうとしないように」


東川先生はそう説明すると、黒板にあるタイマーを30分に設定し、

「それじゃあ、スタート」

という声と共に、スタートボタンを押した。


作文のテーマは前日にすでに発表されていて、なんとなくでいいから書くことは考えておくように言われていたため、ナオも周りのクラスメイトも、集中して30分間 静かに鉛筆を走らせた。


ナオの隣の席にいるルナはあまり集中力が高いほうではなく、10分くらい経つと、貧乏ゆすりをしたり手足をぶらぶらさせたりしていたが、それでも声を出すのは我慢して、黙って一生懸命に原稿用紙を埋めていた。


やがて30分が経ち、タイマーが鳴り響いた。


東川先生はタイマーを止めると、

「30分経ったので、今からは読み合いOKタイムにします。では、スタート」

と前置きをして、今度はタイマーを5分間に設定して、スタートボタンを押した。


「ナオちゃんは、将来の夢、なに?」


ルナは早速、ナオの原稿用紙を覗いた。


「無理だと思うけど、小説家」


ナオは小声で言った。


本を読むことが大好きなナオは、いつか自分でも本を書いて出版することがひそかな夢だった。


すると、ルナは

「小説家って、お話書く人でしょ?無理じゃないよ。絶対なれる!ナオちゃん、頭いいもん」

とまっすぐな目でそう言った。


「ナオちゃんが本出したら、私絶対買う」

とも。


いつも自分の気持ちにまっすぐ生きているルナから、はっきりそう言われると、ナオは本当に小説家になれるような気がしてきた。


「ねえねえ、セイラはなんて書いたの?」


ルナは今度は体をくるっと後ろに向けて、後ろの席にいるセイラの原稿用紙を覗きこみながら、声をかけた。


「読んでいいなんて、まだ言ってないけど。私は、モデルだよ。小さい頃からずっと読んでるファッション雑誌に載るのが夢」


セイラは原稿用紙を腕で覆って隠したが、ルナの質問には答えてくれた。


「へえ、すごい!スタイル抜群だし、ぴったりじゃん」


「そんなことより、ルナはなんて書いたの?」


セイラは聞き返した。


セイラがルナの名前を呼んでいることが、ナオには新鮮に聞こえた。


「私はね、看護師さん。昔、入院したときに、一緒に遊んでくれた看護師さんがすごく優しかったから、私もそんな人になりたい。それに......」


「それに?」


「私のお母さんも、看護師さんだから。私が看護師さんになったら、お母さん、きっとすごく喜んでくれるから」


「ふうん」


セイラは素っ気なく相づちを打つと、もうルナのほうは見ず、今度は隣の席の宮野リアと話しはじめた。


「看護師さんって、すごいなあ」


ナオは素直にそう言った。


「ありがとう」


ルナは恥ずかしそうに笑った。


再びタイマーが鳴った。


「じゃあ1番後ろの席の人は、同じ列の作文を回収して先生の机に置いてください。まだ書き終えてない人は、今日中に先生のところまで出してくれればいいです」


東川先生の声に、最後列の席のクラスメイトが一斉に立ち上がった。


ルナは、回収係のセイラに原稿用紙を渡した。


看護師の夢が叶ったら、きっと喜んでくれるよね。


お母さんも、応援してくれると嬉しいな。


私は、心の中でお母さんにつぶやいた。


だって、なにがあっても、私はお母さんのことが大好きだから。

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