第5話

「吉成くん、さっきのすごいよかったよ。だれかの好きなものをばかにするな、って......。俺もその通りだと思ったもん」


セイラとリアがナオに構うのをやめた後、まだ近くにいた大島ハルキはナオに囁いた。


「そんな、強い言い方はしてないよ」

「そうだっけ。まあ、セイラって最近調子乗ってたから、ちょっと大人しくなってくれるといいんだけどな。とにかく、ナイスだった」


ハルキはナオの肩を軽く叩くと立ち去った。


ナオは、自分に驚いていた。


今までの人生でずっと、あらゆる場面で、なにか思ったことや言いたいことがあっても、決して口に出すことはできず、胸にしまっていたのに。


ルナが幼稚園の子に人気なキャラクターを好きなことを「変わってる」とか「おかしい」とバカにしていたセイラの言動がどうしても引っかかって、つい、怯えながらも正直な気持ちを言ってしまった。


ルナのことを守りたいと思ったのだろうか。


ナオは自分の気持ちがよく分からなかった。


ルナは、東川先生に教室から連れ出されてから10分くらいして、6年3組の教室に戻ってきた。


目にはまだ涙の跡が残っていたが、ナオと目が合うと、バツが悪そうに笑ってみせた。


「ナオちゃん、昼休み、ブランコ来れる?ナオちゃんと、お話したい気分」


給食いただきますの挨拶をする直前、ルナは小声でナオに声をかけた。


ナオは黙ってうなずいた。


運動場には、ジャングルジムのすぐ横にブランコが4つ置いてある。


ナオが転校する前に通っていた小学校では、休み時間になるたびにブランコが取り合いになるほどの人気だったが、ここ優鈴小学校ではほぼ誰もブランコに乗ろうとはせず、すぐ隣のジャングルジムとか、すべり台とか、登り棒が常にごった返していた。


今日の昼休みもブランコには誰もいなかったので、ルナとナオはそれぞれ隣り合わせでブランコに腰掛けた。


「さっき私のこと、皆なんか言ってた?」

ブランコに揺られながら、ルナは聞いた。


「別に......。坂下さんから、どっちが悪いと思う?って急に聞かれたときはビックリしたけど」

「なんて答えたの?」

「シャーペン持ってくるのも悪いけど、人の好きなものをバカにするのも、よくないんじゃないかみたいなこと、言っちゃった」

「私のこと、守ってくれたんだ。そういう優しいとこがあるから、だからナオちゃんのこと好きなの」


ルナはなんのためらいもなく、そう言った。


ナオは急に恥ずかしくなって、黙って地面を見ながらブランコをこいだ。


「私、朝ナオちゃんに嘘ついちゃったの。あのシャーペン、お母さんに買ってもらったって言ったけど、嘘。おじいちゃんから貰ったお小遣いで、1人で買いに行ったんだ」

「そうなんだ」

「うん。私のお母さんは、私になにか買ってくれるような人じゃないから」

「そうなの?」

「そうなの。買ってもらえないだけじゃないよ、私のお母さんは......」


ルナが話している途中で、昼休み終了を告げるチャイムが鳴った。


「さあ、掃除の時間だよー」


先生たちの声が運動場全体に響きわたった。


「とりあえず、シャーペンはもう絶対学校には持っていかないことにするよ」


ルナはそう言うと、走って掃除場所へと向かった。

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