第2話

ナオは帰宅してからも、自分が人生で初めて告白されたことがまるで夢のような信じられない思いだった。


翌朝目が覚めた後はやはり夢だったのではと思ったが、学校に着くとこれは現実なのだと確信した。


ナオが教室に入って席に着くと、すでに登校していた隣の席のルナは、いきなり満面の笑みで

「ナオちゃん、放課後、デートしよ!」

と開口一番、おはようもなくデートのお誘いをしてきたのだ。


小声ではあるものの、ルナの声はざわざわした雰囲気の中でも通りやすい声質だ。


心なしか、大勢のクラスメイト達の視線を感じる。

ナオは恥ずかしくて、ルナと目も合わさず声も出さずに、黙ってうなずいた。


ナオがうなずいたのを確認すると、ルナはますます笑顔になって

「やった!じゃあ決まりね。優鈴(ゆうりん)公園に、4時に来てね」

と時間と場所を勝手に決めてしまった。


デートの約束をしてからも休み時間になる度に、ルナは「好きな食べ物は?」とか「好きな芸能人は?」とか色々話しかけてきた。


しかし人見知りのナオは、出会って2日目のルナにあまり心を開くこともできず、ボソボソと聞かれたことへの答えのみを口に出して、そこから会話を広げることはできなかった。


しかしルナはそんなナオの様子を全く気にすることなく、まるでYouTubeの100質動画のように、とめどなく色んな質問を浴びせるのだった。


1番困った質問は「ナオちゃんの名前、誰が付けたの?なんでナオなの?」というものだった。


当然お父さんかお母さんが付けたのだろうが、自分の名前の由来がどんなものかなんて、聞いたことも考えたこともなかった。


そんなこと聞いて何になるのだろうと思いながら、「わからない」とナオはやはりボソボソと答えた。


転校して2日目だが、ナオに話しかけてくるクラスメイトは、ルナ以外には男子女子含めて誰もいなかった。


小学校生活も残りわずかで、今さら転校生と仲良くなる暇なんてないと思っているのだろうか。


それとも、ナオのコミュ障で陰気な雰囲気をどことなく疎ましく感じているのだろうか......。


ナオにとって、クラスで唯一自分に構ってくれるルナの存在は、嬉しいような恥ずかしいような、そしてなにより不思議だった。


それは、陰気な雰囲気のナオを気に入って、話しかけるどころか告白までしてきたというルナの行動に対する不思議さはもちろんだが、それ以上に、明るくて可愛らしくて、まさしくクラスの人気者にふさわしいような存在のルナが、ナオ以外とは誰とも喋らず、また誰からも喋りかけられないということが不思議だった。


あっという間に6時間目の授業が終わり、帰りの会で「さようなら」の挨拶と共に担任の東川(ひがしかわ)先生とジャンケンをし、下校となった。


ルナは「じゃあ、あとでね!」

と笑顔でナオに手を振り、走って校門を出ていった。


ナオもランドセルを置くために、自宅へと向かった。


ナオの家から待ち合わせの優鈴公園までは、小走りで行っても10分はかかる。


自転車を持っていないナオは、帰宅したらすぐにまた家を出ないと、約束の4時には間に合いそうにない。


ナオは人生で初めてのデートがどんなものになるのか、不安でいっぱいだった。

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