第1話 [プロローグ]
「私と付き合わない?」
突然そう言われ、ナオは動揺した。
今日がナオにとって転校初日だったから、と言うのはもちろんのこと、ナオのこれまでの人生で今まで1度も、誰かから好意を寄せられたことなどなかったのだ。
吉成(よしなり)ナオ、小学6年生。
1年生から6年生の1学期まで地元の小学校で過ごしたが、父親の仕事の都合で夏休みにどうしても引っ越しせざるを得ず、6年生の2学期と3学期だけという非常に短い期間だが、優鈴(ゆうりん)小学校に転校することになった。
もともと人見知りが激しく大人しい性格で、自分から誰かに話しかけるといったことは大の苦手であるため、ナオはこの転校を喜べるはずもなく、友達ができるかどうか、先生は怖くないか不安だらけだった。
そんな転校初日の休み時間、6年3組の教室で、隣の席に座っていた菅田(すだ)ルナから、挨拶も自己紹介もなく告白されたのだ。
ルナは小柄で髪は黒のストレート、顔はかなりの可愛い系。
そんなルナから告白をされ、嬉しくないわけはないが、嬉しさや喜びといった感情よりも、これまで会話も一切交わしたことがないのにいきなり告白されるという唐突さから来る不信感が勝っていた。
自分のどこに惹かれたのだろうか。
なにか裏の目的があるんじゃないか。
でも、このチャンスを逃せば、自分に好意を寄せてくれる人物は人生で二度と現れないのではないか......。
色んな考えが頭をかけめぐったのち、ナオは気が付くと、小さくうなずいていた。
ルナはナオがうなずいたのを見ると、「よしっ!」と声をあげてガッツポーズを取った。
「じゃあ決まりね。今日から私たち、両想い!私のこと、ルナって呼んで。君のことはナオちゃんって呼んであげる」
と矢継ぎ早に話し、ナオの意見を聞くでもなく、呼び方まで勝手に決めてしまった。
ナオはもともと、中性的な自分の名前が好きではなかった。
クラス替えの度に、名簿から名前だけを見た先生からは必ず女子と判断され、ナオの顔を見たあとで「ごめん、男の子だったんだ」と謝られるのが恒例だった。
どうして「ナオちゃん」だなんて、ちゃん付けで呼ぶんだろう。
そう思いながら、決して口には出さなかった。
ナオは物心ついたときからずっと、自分の思っていることや考えていることをうまく言葉にできず、心の中にそっとしまい込んでしまう少年だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます