第44話 あの日から

「テレビ買うの付き合ってよ」と眞白さんから電話があった。

いつからか、何か理由をつけて会っている気がする。


きっと眞白さんは暇なんだ。

期待は、もうしないって決めている。

眞白さんが元気になるまでずっとそばにいるって決めたのは自分自身。



てっきり家電の専門店に行くのかと思ったら、天野のショッピングモールで待ち合わせだった。


眞白さんは店員さんの説明を聞いて、テレビに録画できたり、動画も見ることができることに驚いていた。




買い物を済ませた後、「帰ろう」と言われなかったので、なんとなくショッピングモールの中をぶらぶらしている時だった。


「あれ、付き合ってよ、リハビリがわりに」


眞白さんがゲーセンを指差した。


選んだのは対戦型の格闘ゲーム。


「ハンデつけて」

「嫌ですよ」

「でも、右手はまだうまく動かないんだけど」

「リハビリなんですよね? だったらハンデなんかなしで頑張ってください」

「まぁ、いいけど……負けた方が勝った方の言うこと聞くっていうのはどう?」

「いいですよ」

「もしかしてこのゲームやったことある?」

「はい」

「いつ?」

「高校の頃」

「誰と? 彼氏とか?」

「……まぁ、そんなところです」

「そいつとはどうなったの?」

「大学入る前に別れました。向こうは県外の大学行っちゃったから、もうずっと会ってません」

「そう……」

「早くしましょう! 負けませんよ!」



キャラクターの移動は右手の操作になるのに、こっちの攻撃は全部避けられてしまう。


「なんで?」

「未来ちゃん、負けそうだよ?」

「本当にまだ右手うまく動かないんですか?」

「うん。ペットボトルのキャップ開けるのも苦労する」

「嘘!」


簡単に負けてしまった。


「なんで? どうして?」

「弱いね」

「ショックなんですけど……」

「弱すぎるよ。全然リハビリにならない」

「わかりました。とりあえず1回何でも言うこと聞きます」

「うん」


そう言ったきり、眞白さんは少しの間黙ってしまった。


「行きたいとこあるんだけどいいい?」

「いいですよ。それが1回分ですね」

「それは違うでしょ」


眞白さんは時計を見ると、2階のゲーセンからは一番遠いエスカレーターを降りて、なぜか遠回りをして、わたしをインフォメーションの前に連れて行った。


時計の下に着いたちょうどその時、4時を知らせる鐘が鳴り響く。


それを聞いて眞白さんが言った。


「もう一度、始めたい。あの日、待ち合わせた日から」


ただ、黙って、眞白さんを見ることしかできなかった。


「未来ちゃんさえ許してくれるならだけど……」


「……何でも言うこと聞くって……約束だから……」


そう言ったけれど……


そんな約束なんてなくても……


もう一度始められるなら……きっとわたしは、なんだってする。



「未来って呼んでいい?」


「それだと……もう一回勝たないとダメです」


泣きそうになるのを必死で我慢した。


「いいよ、何回やっても勝てるから」



そう言った眞白さんは、わたしが、ずっと、ずっと見たかった笑顔だった。

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