第43話 ---眞白side--- 時間

--眞白の思い---


「内勤は慣れた?」


今も苦戦しながらパソコンに向かうオレに、坂下が笑いながら聞いてきた。

全く慣れる気がしない。

目的の文字を探し終えたところで、顔を上げた。


「そういえば、ハムスターが頬袋にヤングコーン入れたら、そのまんまの形で頬が膨らむの知ってる?」

「ふーん」

「何?」

「この前は換毛期のうさぎの抜け毛の話してたけど、どこから聞いてくる話なのかなーって思って」

「さっきから何?」

「別に。前の日何話したとか、こんなことあったとか聞かされるけど、わたしはあんたのお母さんじゃないよ」


そんなにいつも話してたんだろうか?


「止まってた時間が進み始めた感じ?」

「何それ?」

「自分で考えな。ほら、頑張って。まだまだ書類の山が残ってるよ」


去って行く坂下の後姿をしばらく見ていたけれど、黙ってもう一度パソコンに向き合った。




せっかく邪魔がいなくなったと思っていたところで、今度は大原が話かけてきた。


「先輩、毎日未来ちゃんと会ってるんですか?」


キーボードから目を離す。


「坂下が言ってた?」

「違います」

「お前には関係ないだろ」

「どうでしょう? ただ寂しいからとかそんな理由なんだったら……」

「違う」

「え?」

「無駄口たたいてないでどっか行け」

「僕が後ろに控えてるってことだけ覚えておいてもらえれば、とりあえずはいいです」



「東奈署管内 火災入電中」



署内に流れた放送が会話の終わりを知らせた。


「先輩、早く現場に復帰してください」


最後にそれだけ言って、大原は目の前からいなくなった。

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