第41話 特別

「ただいま」


家に帰ると、父がリビングでお酒を飲んでいた。


「最近帰り遅いね?」

「……うん」

「怒ってるわけじゃないよ。もう大学生だし、ちゃんと将来に向かってがんばっているのも知ってるから、未来の好きにすればいい。ちょっと、思い出してたんだ。未来の……傷のこと」

「わたし気にしてないよ?」

「ああ、そうじゃなくて。未来が小さかったから、言わないでいたことがあったんだ」

「何?」

「未来が怪我した時、木から落ちた、って説明しただろ? 本当は少し違うんだ。あの時、未来は、太い枝が……刺さって、木から落ちなかったんだ。もし、落ちてたら命はなかっただろう、と言われた。未来のその傷は、未来の命を救った傷だったんだ」

「じゃあ、わたしはどうやって病院に運ばれたの?」

「救助隊の人が、高いところまで登ってくれて、未来を支えながら、その枝を切って、下ろしてくれたんだよ。後は前に話したのと同じ。ドクターヘリで東奈大学病院に運ばれた」

「そうなんだ」

「うん。怖がらせるかと思って黙ってた。でも、もう大丈夫だろ?」

「教えてくれてありがとう」




なぜか記憶に残っていることがあった。


怪我をした日、痛みでぼんやりとした意識の中、見えたオレンジ色。

そのオレンジは夕日の色だとばかり思っていたけれど、違っていた。


特別な人の色。


ずっと、オレンジ色はわたしにとって特別だったんだ……

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