第35話 ---眞白side--- きざし

---眞白の思い---


昼過ぎまで寝ていた。

利き腕をギブスで固定されているから寝る以外何もすることがない。

何をしたらいいのかわからない。

起きてしまったから、いつものように近くのコンビニに向かった。




コンビニに入ると、真っすぐに一番奥に向かった。

アルコールのコーナーに行ってビールを手に取り、考え直して棚に戻した。

ペットボトルの置いてある方に向かっていた時、外で車の急ブレーキをかける音と、ガシャンという音が同時に聞こえた。


急いで店を出ると、目にとびこんできたのは、コンビニのすぐ前の歩道に前輪を乗せた状態で止まっている車と、道路の真ん中に倒れた自転車、その横に立っている男子学生だった。

すぐに車から運転手がでてきた。


「大丈夫? すぐに救急車呼ぶから」

「大丈夫です。自転車が少し接触しただけで、当たっていません」

「いや、ダメだよ」


そう言いながら、運転していた男が自分のスマホで電話をかけていた。


すぐに救急車と警察が来て、運転していた男性と男子学生は何かを説明していた。

やがて、男子学生は救急車に乗せられて行き、ひとりの警官が運転していた男性に事故の状況を聞いている間、別の警官が道路や歩道幅、接触地点などを測り始めた。



コンビニの壁によりかかるようにしゃがんで、全てが終わるのを、ずっと見ていた。

数時間後、道路がまた何事もなかったような日常に戻っていくまで、ずっと見ていた。



オレはここで一体何をやっているんだろう?


ケガをしてなかったとしても、きっと今のオレでは何もできない


それでいいんだろうか?


このまま終わりにするのか?


なんのために……救助隊を目指したんだった?




どのくらいその場にいたのかもわからなかった。




「どうぞ」


ふいに目の前にペットボトルが差し出された。

見上げると、目の前に未来が立っていた。

オレにペットボトルを渡すと、未来も隣にしゃがんだ。


「眞白さんにここで会った日、初めての実習で、あまりにも無力な自分に、どうしようもなく落ち込んでたんです。救ってくれたのは、これでした」


そう言って、オレが持っているペットボトルを指差した。


「よく、わかんないんだけど?」


未来はただ笑っただけだった。

陽の光が似合う笑顔。カーテンの閉まった暗い部屋なんかじゃなくて。


ああ、オレのせいで暗いところにいるのか……

だったら明るいところに行かせてやらないと……オレのいない場所に……


未来がいない場所……


「昔、母に言われたんです。『未来(みらい)は、過去で決まるんじゃなくて、現在(いま)から作るんだよ』って。『過去をなかったことにはできないけど、そのせいで、これからやってくる未来(みらい)まで囚われちゃいけない』って。そんなふうに思えるようになるまで、時間がかかりました」

「いいお母さんだね」

「はい。いいお母さんでした」


未来はオレの言った言葉を過去形に言い直した。


「わたし今日は帰りますね。」

「え? あ、うん。明日は……来る?」


未来が黙っていたので、


「見張ってないと、また酒飲むかもしれないよ?」


と言った。


「じゃあ、行きます」

「また明日」

「はい、また明日」



オレは、未来の後ろ姿をずっと見ていた。

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