第33話 ひとり

今日こそ、今日こそ追い返されるかもしれない、そう思いながらドアフォンを押す。

しばらく待ってみたけれど、出てくる気配はない。


前もやったし。

そう思ってドアノブを回すと、また鍵はかかっていなかった。


「眞白さん? 鍵かけないのは物騒ですよ。」


勝手に中に入ると眞白さんはまたお酒を飲んでいた。


テーブルの上に空き缶が1、2、3本と、手に1本持っている。


「飲み過ぎです」


眞白さんの目の前まで行って、手に持っているお酒を奪って一気に飲んだ。


「関係ないだろ」


そう言った後、わたしの方を見て


「え?」


と驚いた。


わたしがその場に座り込んでしまったから。


「酒弱い?」

「はい……」

「だったらなんで一気飲みなんか……」

「眞白さんに飲んで欲しくなかったから」

「捨てれば良かったじゃん」

「ああ、そっか。そうですよね……」


やばいかな。

頭がふわってしてきた……


「なんで、毎日来るの?」

「眞白さんに、1人でいて欲しくないから」

「今までずっと1人だったけど?」

「でも1人でいて欲しくないんです」

「酔ってる?」

「酔ってません」


ぼんやりする頭で眞白さんを見ながら


「眞白さんが前を向いて……」


そこまで言ったところで、記憶が飛んでしまった。



夢の中で、誰かがわたしの頭を撫でていた。何度も謝りながら。

「誰かを傷つけていいはずないのに」そう言いながら。

謝らなくていいよ。ずっとそばにいるから。泣かないで……



目を覚すと、眞白さんの、ギブスをしていない方の肩に寄りかかっていた。


「ごめんなさい。わたし寝ちゃったんですね」

「なんで……」


眞白さんはそう言いかけてやめてしまった。かわりに、


「起きたんなら帰って……もう、飲まないから」


とだけ言った。


「帰ります。またきますね」

「ああ……うん」


肯定なのか否定なのかよくわからない返事をされた。

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