第31話 願い

実習が早めに終わり、更衣室で着替えていると、七海が入ってきた。

七海は今は呼吸器内科だと言っていた。


「呼吸数測るのに、『今から呼吸数はかりますね』って患者に言っちゃって、正看にめっちゃ怒られた……」

「あぁ……」

「横でずっと見てられたからテンパった。初歩的なミスに、自分が腹立たしい。未来、帰りに遊びに行かない?」

「ごめん。やめとく」


七海はユニフォームを脱ぎかけた手を止めた。


「もしかして、まだ不毛なこと続けるの?」

「不毛って……」

「亡くなった人には絶対勝てないよ」

「勝ちたいわけじゃない。わたしのことは好きにならないって、はっきり言われてるし」

「そんなの、面と向かって言ってくるやつどうかしてる。やめときな。好きにはならないけど癒やせよ、みたいで卑怯じゃん」

「でも、わたしも、あなたのことは好きにならない、って言ったから」

「未来……」

「何?」

「泣きそうな顔してそんなこと言わないで」

「んー……ほんと、不毛だね」

「未来のバカっ」



眞白さんに元気になって欲しい。


前を向いて欲しい。


笑って欲しい。


そのために、わたしを利用すればいい。


だって仕方ないよ。


わたしは、わたしのことをこれっぽちも好きじゃない眞白さんを、ほっとけないんだから。

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