第27話 胸騒ぎ
朝、病棟に着くとすぐに山野辺さんが話しかけてきた。
「日向さん、今朝がた柳さん亡くなられたのよ。ご家族の方は最後に間に合われたけれど、この間、日向さんが話してた人は来られなかったみたい」
眞白さんはこのことを聞いたんだろうか?
眞白さんはどうしているんだろう?
それでも、そのことをどうにかして頭から追い出した。
ここにいる間は自分の感情なんて後回しにしないと。
今は、目の前のことに向きあわなくちゃいけない……
それに、わたしはあの日、はっきりと眞白さんに線をひかれたんだから……
わたしにできることなんて何もない。
午前中の実習をなんとか終えて、いつものように校舎の方に戻り、空き教室でお弁当を広げた。
でも全然食べることができない。
遅れて愛菜が教室に入って来た。
「疲れた……やばい」
「何かあった?」
「うん。今朝、解体予定のビルで火災と崩落事故があって、結構な人数が運ばれてきたんだけど、それがあまりにも多くて、ECUもICUも大変だった」
「みんな、大丈夫だったの?」
「なんとかね。でも消防の人も1人運ばれて来てた。救助隊のオレンジの人」
胸騒ぎがする。
「事故ってどこであった?」
「えーっと、ここのちょっと行ったとこに橋があるじゃん? そこの近くのビルって聞いたけど。道路も封鎖されてるから、今病院の前とかかなり渋滞してるみたい」
橋の近くってことは、東奈消防署の管内……
「それで、そのオレンジの人って、どこを怪我したの?」
「あー、そこまでは知らない。優希とか知ってるんじゃないかな? あの子今ECUのはずだから」
「優希どこにいるか知ってる?」
「わたしがここに来る時、売店の前のベンチで見たよ」
「ありがとう。ごめん!」
お弁当を片付けて、売店に向かって走った。
売店の前のベンチに優希はいなかった。
周りを探していると、売店から出てくるのを見つけた。
「優希!」
「あ、未来。何?」
「今朝、ECUに運ばれてきた救助隊の人、どこを怪我したの?」
「えーっと、肩の方を痛めたのと、腕から手首までギブスしてた。骨折かなぁ? 運ばれて来た時は動けないみたいだったけど、帰りは大丈夫そうだったよ」
「どんな人だった?」
「どんな? えーっ……どんな……背は高かった。あとは……ああ! 同僚っぽい人が『シュウ』って呼んでた。『シュウなんであんな無茶したんだ』とか言って怒ってた」
それだけじゃわからない。
眞白さんが怪我したとは限らない。
それでも心臓がばくばくいっていた。
「別の人が『マシロ』って呼んでるの聞いたよ」
優希の隣にいた子が言った。
胸がズキンと痛くなった。
「それ、確か?」
「わたし近くにいたから」
「……ありがとう」
「未来、知り合いなの?」
「うん、まぁ」
「だったら、もう帰宅してると思うから連絡してみたら?」
「そうだね。ありがとう」
眞白さんだ。
怪我をしたのは、眞白さんだった。
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