第23話 意味

学校を出て、眞白さんと最初に会ったコンビニに向かっていると、いろんなことが思い浮かんだ。


あの日、どうしてあのまま家に帰らなかったんだろう……

コーヒーがこぼれたブラウスなんて気にしなければ良かった。


今ならわかる。

坂下さんが言った言葉の意味が。


『あいつは、やめといた方がいい』


坂下さんは志保理さんのことを知っていたんだ。




コンビニに着くと、駐車場にいた眞白さんはすぐにわたしに気が付いて、近づいて来た。


「良かった、会えて。ちゃんと謝りたかったんだ、この前のこと。どこか話せるとこに……」

「眞白さんの家でいいですよ、この近くなんですよね?」

「ああ、うん。未来ちゃんがいいなら」

「いいですよ」


だって、眞白さんはわたしには興味がないから。




眞白さんのマンションは本当にコンビニのすぐ近くだった。


「お茶でいい?」

「はい」


眞白さんは駐車場にあった自販機でお茶を買って、階段を上がった。

眞白さんの部屋は2階の一番端っこだった。


「うち、冷蔵庫ないから」


そう言いながら、部屋の鍵を開けると


「どうぞ」


と言われた。



部屋に入って驚いた。

あまりにも、何もなかったから。


ここで本当に暮らしているの?


使われた形跡のないキッチン。

本当に冷蔵庫もない。レンジすらない。

部屋の中も、ベッドとローテーブルくらいで、テレビもなかった。


「ここって、どのくらい住んでるんですか?」

「今の署に配属されてからだから、多分5年くらい」



5年……

5年住んでてこんなに何もないの?



自分には志保理さんと救助の仕事以外何も必要ない、っていう決意のような部屋に思えた。



「何もないって驚いてる?」

「はい」

「床で悪いけど座って」


言われるままにそこに座った。

眞白さんはわたしの斜め向かいに座った。



「志保理とは、高2の時から付き合ってて、志保理の親にも公認だったんだ。あいつには、よく怒られてた。毎日何となく生きるなって。目標を見つけろって。高3になっても進路が決まらなくて、適当にどこか大学にでも行こうかくらいしか考えてなかったんだ。あの日までは……」

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