第21話 ---眞白side--- それぞれの想い
---眞白の思い---
朝、志保理の母親から電話があった。「話があるから病院に来れないか」と。
ちょうど非番だったので、言われた時間に志保理の病室に行くと、チューブで繋がれた志保理のそばに、志保理の母親と、それに寄り添うように父親の姿があった。
先に口を開いたのは志保理の母親だった。
「志保理……もう長くないの。いろんな臓器がダメになっちゃってて。志保理がこんな姿になって、もう8年になるのね……」
独り言のようにも聞こえる言葉だった。
「修くんが大学進学を辞めたのは、志保理のせいよね」
「それは違います。誰かを助ける仕事に就きたいと思う自分の意思です」
その答えに、志保理に母親は、悲しそうに微笑んだ。
「もう、ここには来ないで。志保理の最後は見ないで欲しいの」
志保理の母親は、目を閉じたままの娘を、愛おしそうに撫でた。
そして、ようやく真っ直ぐにこっちを見て言った。
「もっと早くあなたに言わなくちゃいけなかった。今日で最後にして。こんな……こんな姿じゃなくて、笑っている志保理だけを記憶に残しておいて。お願い」
ただ、黙って志保理の母親が言うことを聞くしかなかった。
「志保理の弟の和樹を覚えてる? 今度子供が生まれるの。わたしたちの初孫」
「私たちは、前に進もうと思う。君にも、自分の未来を見て欲しい」
今度は、ずっと黙っていた志保理の父親が言った。
「修くん、ごめんなさい」
「すまない。君を……見ると、私たちも前に進めないんだ」
ただ黙って頭を下げて、持っていた花束を渡すことなく病室を出た。
志保理にふれることすら、叶わなかった……
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