第20話 それでも
学校が終わった後、バスに乗らずに駅まで歩いた。
朝、眞白さんのあんな姿を見たのに、歩いた。
もしまた偶然会えたとしても、なんて声をかけたらいいのかも分からないのに。
「あれ、未来ちゃん?」
名前を呼ばれて一瞬期待した。
「あ、大原さん」
「今帰り?」
「はい」
「学校から駅まで歩いてるの?」
「運動不足だから」
「そっか。こっちは少し運動不足になりたい。なんて言っちゃいけないんだけど」
「大原さんはお休みですか?」
「この服私服に見える? コンビニに使いっ走りだよ」
言われてみれば、大原さんは『東奈消防署』と書かれたTシャツを着ていた。
「ここのコンビニ署が近いからみんなよく利用するんだ」
「そうなんですね」
「あのさ……」
「はい?」
「良かったら連絡先教えてもらえないかな?」
「わたしのですか? それだったら坂下さんが知って……」
「誰から聞くんじゃなくて、未来ちゃんから聞きたいんだ」
「いいですよ」
「あ……でも今何も持ってなかった……」
「だったら、大原さんの番号教えてください。わたしがそれにかけるから」
「いいの?」
「はい」
大原さんに言われた番号に電話をかけた。
「これで着信が残ったはずです」
「ありがとう。電話していい?」
「はい」
「じゃあ、僕行かないと」
「お仕事頑張ってください」
「頑張ることがない方がいんだけどね」
「そっか。じゃあ、トレーニング頑張ってください」
「そうする。じゃあね」
こんなに簡単に連絡先の交換はできるのに、聞いて欲しい人には聞いてもらえない。
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