第12話 願いごとはひとつだけ
学校が終わった後、バスに乗らずに、わざわざJRの駅まで歩いた。
最初に会った時もこのくらいの時間だったから、もしかして、と思ったりして。
コンビニの前まで来て、中に入ろうかどうしようか迷っていたら、ちょうどコンビニから出てくる眞白さんを見つけて、嬉しくなって声をかけた。
「眞白さん!」
「ああ、未来ちゃん」
『何でここにいるの?』とか聞かれない。
「暇?」
「え? はい」
「ご飯食べに行かない? この近くファミレスしかないけど、それで良かったら」
「行きます」
でも、誘ってくれた。
コンビニの前の道路を渡って少し歩いたところのファミレスに入った。
席に座るとすぐに、店員さんが何かのキャンペーンだと言って、抽選くじの入った箱を持って来た。
「未来ちゃんひきなよ」
そう言われて、箱に手を入れた。
「何か当たるかな?」
そういいながらくじを選ぶわたしを、眞白さんはにこにこして見ていた。
「眞白さんは何があたったら嬉しいですか?」
「うーん。特に何も。ハズレでいいよ」
「そうなんですか?」
「願いごとはひとつだけだから。それ以外はどうでもいい」
「それって何なんですか?」
「内緒だよ。言ったら叶わなくなるかもしれないから」
眞白さんは静かにそう言った。
眞白さんは消防署の話をしてくれた。
訓練や筋力トレーニングでいつも鍛えている話を聞いて、坂下さんが隊員の人たちを「筋肉たち」と呼んでいるのを思い出してしまった。
眞白さんは自分の話もしないけれど、わたしのことも聞いてこない。
「ご馳走様です」
「いいよ、こっちが誘ったんだから」
「じゃあ、今度何かお礼します」
「何もいらないよ」
『欲しいものはひとつだけだから』
なぜか、そう聞こえてしまった。
「駅まで送るよ」
「え? いいです! バスに乗るので!」
「そう?」
本当は駅まで一緒に歩きたかったけど、嘘をついた。
眞白さんの『願い』はなんなのかな。
バスに乗った後、そのことをいろいろ想像した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます