第13話 偶然じゃない
「日向さんって、どうして看護師になろうと思ったの?」
その日は、急を要する患者さんが運ばれて来なかったので、空気がゆったりしていたせいか、備品を整理しながらだったけれど話しかけられた。
「ドラマの影響で……」
「ああ、アレだぁ。なんとかってアイドルの男の子が救命医のやつね」
「はい」
「人間ドラマとしては面白かったからわたしも見てた。アレ見てなろうと思った子多いよね」
「いつか、フライトナースになりたいんです」
「じゃあ、救急の経験は外せないね。資格も必要だし。講習会にも出なくちゃいけないから、本気で取り組まないと。5年以上モチベーション保つのは大変だよ。それにドクターヘリを持ってる病院は多くないから、ライバルもメチャクチャ多い」
「はい。簡単じゃないのは自分でも調べました」
「ドラマってさ、手術中、医師が何か言う前に『デキる設定の看護師』がメス渡したりするじゃん? アレ、やっちゃダメなやつだから。テレビだと指示もないのに看護師いろいろやりすぎ! 現場とはやっぱり違うから」
「そうですね」
「実際はできないことが多くて、苦しくなることの方が多いよ。日本にナース・プラクティショナーはないからね」
本当は、子供の頃怪我をしてドクターヘリで運ばれたことが、看護師という仕事に興味を持ったきっかけだったのだけれど、そのことは言わないでいた。
気がついたら病院にいたからヘリに乗った記憶はない。でも、そこにわたしを助けてくれた人たちがいた。
いつからか、そんなふうに、どこかで誰かの助けになりたいと思うようになっていた。
学校を出て駅までの道を歩くのは最近の日課になりつつある。
毎日歩いても、眞白さんに会えるとは限らない。それでも歩いてしまう。
眞白さんと初めて会ったコンビニに着くと、中で雑誌を見たりして少し時間を潰して、最後にペットボトルのお茶を買って店を出た。
今日も会えないのかな、と思いながら消防署のある方向をしばらく見ていたけれど、誰も通る人はいなかった。
それで諦めて駅に向かった。
駅が見えたところで、眞白さんを見つけた。
シャツにジーンズ姿ということはきっと非番だ。
「こんばんは」
「あ、未来ちゃん」
「よく会いますね」
「本当だ」
なんだか元気がない?
「何かありました?」
「何も……」
「アイス食べませんか?」
「アイス?」
「この前のお礼に!」
「えっと……」
「行きましょう!」
半ば強引に眞白さんを誘って、駅前でアイスクリームを買って2人で食べた。
わたしがひとりで話すのを、眞白さんは聞いていた。
「日曜日、楽しみにしてます」
「映画とか久しぶりで……いや、誰かとどこかに行くのが久しぶりかも」
「消防署の人たちと遊びに行ったりしないんですか?」
「行かないかな。遊ぶようなやついないかも」
「わたしがいますよ」
「そっか。未来ちゃんがいてくれるんだ」
「はい」
「……ありがとう」
それがアイスのお礼だったのか、別のことだったのか分からなかったけれど、少しでも元気になってくれたのなら嬉しい。
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