第17話 想い

病棟の休憩室は実習生には開放されていないから、お昼休憩は一旦校舎へ戻った。

空いていそうな教室を見つけて、中に入ると、同じ看護学科の愛菜がいてお弁当を食べていた。


「一緒に食べていい?」


声をかけながら愛菜の方に近づいた。


「嬉しい。誰かと話したかったんだ」


愛菜はお弁当から顔を上げて答えてくれた。


「なんか疲れるよね。何もかも初めてっていうのもあるからだけど。愛菜は今ICUだっけ?」

「そう。もうピーンって空気が張り詰めてて怖い」

「脳外も同じ。これが後2週間とかきつい」

「だね」


話しながらお弁当を出して机の上に広げた。


「そういえば、ICUからそっちに移った患者さんいるでしょ? 若い女の人」


愛菜が言った。


「うん」

「ちょっと噂になってた」

「なんで?」

「その人、高3の時交通事故にあって植物状態になっちゃったらしいんだけどさ」

「遷延性意識障害って言わなきゃ」


つっこみを入れる。


「まぁ、いいじゃん。2人だけなんだし。それでね、昨日、容態が急変してICUに運ばれて来た時、男の人も一緒に来たんだって」

「家族?」

「それが、高校の時の彼氏らしいんだよね」

「それって……」

「その男の人、高校の時からずっとその女の人のことを好きってことだよね。こんなこと実際にあるんだ」



志保理さんは、遷延性意識障害になって8年目って聞いた。

じゃあ、その男の人は8年も目を覚まさない志保理さんを想い続けてることになる。


それは、辛くないんだろうか?


でもそれ以上に、志保理さんのことを愛してるってことなんだよね。



「それで、その男の人、面会時間終わるギリギリまでいたらしいよ」

「そうなんだ」

「脳外の方にも面会に来るんじゃない?」



8年も眠っている恋人を想い続ける人……

愛する人が目を覚ますことをずっと願っている人……


それは、どんな人なんだろう?

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