第9話 誘い

一日の実習が終わって更衣室に行くと、七海がわたしを見つけて寄ってきた。


「なんか疲れてない?」

「うん。精神的にね」

「帰りにどっか行く?」

「行こうかなぁ」


そんな話をしていると、ロッカーの中でスマホが振動する音が響いた。

急いでスマホを見ると坂下さんからだった。


「未来ちゃん? 坂下だけど、まだ学校?」

「今から帰るとこです」

「良かった! あのね、今駅前で署の筋肉たちと飲んでるんだけど、友達誘って来ない? 奢ってくれるって!」

「ちょっと待ってください。聞いてみます」


スマホを保留にして、近くにいた七海と香奈に話をする。


「何歳の人たちなの?」


香奈に聞かれ


「坂下さん、みなさん何歳くらいの方なんですか?」

と聞いた。


「待ってね」


そう言うと、坂下さんが順番にスマホをまわしたらしく、


「27。23。25。22」


と、いろんな声が聞こえた後、


「最後の22は嘘だよ。29だから」


という坂下さんの声がした。

わたしの横で耳を澄ませていた七海と香奈が「OK」と合図をしてきたので、


「3人で行ってもいいですか?」


と聞くと、


「待ってる! 駅前の『風鈴』っていう居酒屋なんだけどわかる? 駿大予備校の道路渡ったとこ」

「その塾知ってるんで大丈夫です」

「眞白はいないからね」

「関係ないですよ」

「そう? じゃあ待ってるね!」


坂下さんの後ろで何か騒いでいるような声が聞こえて電話が切れた。




駅に向かう途中、2人にどういう知り合いか聞かれ、コンビニでコーヒーをこぼされて東奈消防署に行ったいきさつを話した。


「でも、その眞白さんという人は来ないんだよね?」

「そう言ってた」

「なーんだ。未来の気になる人見たかったな」

「わたしも見たかった」

「気になってないし、そう言うんじゃないから」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る