第48話 君のスマホを見せてもらいます
お守りを引き出しにしまった後、少し余韻を味わいたかったのか、次にいく覚悟を決める時間が欲しかったのか分からないけど、一つ大きな深呼吸をついてから、いよいよスマートフォンに手を伸ばす。山石君の情報が詰まっている金属の塊は、やっぱりその情報量に比例するようにずしりと重たかった。
スマホに触れると画面が明るくなり、部長でも大将でもなかったミャーコが不満そうに目を細めている姿が現れた。これだけで間違いなく山石君のものだと分かる。ミャーコのこんな微妙なショットを待ち受けにするのが彼らしいというかなんと言うか。
ロックはかかっていなかった。音楽室での練習で探し物をするために借りた時もロックしてなくて、セキュリティ意識が低いことを説教したのを思い出した。様々なアイコンが何十もの新着通知を表示しており、この機械の時はしばらく前に止まったままであることを知らせていた。それらを端から全て開いていくのはなんだか後ろめたい気がしたので、差しさわりのなさそうなアプリを探す。
そうだ。写真なら個人情報とか見られて困るようなものはあんまりなさそう。
写真フォルダを開いてみると、入学式の日のミャーコの写真から始まっていた。これなら私と出会ってからの写真しかなさそうだから、見ちゃいけないものも少ないはず。いくつか撮られているミャーコの写真から次の写真へとどんどんスクロールしていく。桜並木の様子や学校を正面から撮ったもの、道端に咲いたたんぽぽなどが写っており、通学路で撮影しながら登校している山石君の姿が想像できた。あの頃金髪だった山石君が道端のたんぽぽを撮っている姿はなかなかシュールだったに違いない。
少し日付が進むと黒髪に直した時の自撮りやメガネをかけた姿とコンタクトの時の姿の自撮りが並んでいた。これは山石君のイメチェンのためにズケズケとアドバイスしていた頃だな。私が言った通りにして変化した様子を撮って確認してたのかな。不安そうな表情からまだ私のアドバイスが信用しきれていなさそうな雰囲気が伝わる。それにしても、わざわざ自撮りしてまで確認するあたりが山石君の真面目な性格をよく表してる。
その後、イメチェンの甲斐あってか友達が増えたようで、男友達と一緒に撮ったものが増えて楽しそうに笑う姿が多くなっていってる気がする。当たり前のことなんだけど私が知らない山石君の生活や表情があって、一緒に写ってる友達はそれを知ってるんだって考えると、少しだけ嫉妬した。けど、私の知らないところでもちゃんと楽しく過ごしてたみたいでちょっと安心もした。
そして、文化祭の準備の頃になると一気に枚数が増え、自分で友達を撮ったものや友達にこっそり隠し撮りされたもの、ふざけてる様子を撮ったものなど、行事に参加できてることへの嬉しさや楽しさが詰まっている写真たちが残されていた。長い闘病生活の中で、束の間の青春だったけど本当に山石君は楽しそうに過ごしていた。
いきなり指揮者に立候補したり勝手に伴奏に指名されたりして振り回されたことも多かったけど、それまで経験できてなかった青春を一気に取り返すように全力で楽しんでたのかもしれない。そう思うと、合唱の時もクラスの出し物も文化祭を見て回る時でさえも、いつも山石君は一生懸命だった気がする。もしそうだったなら、言ってくれたらよかったのに。そしたら私も山石君と一緒にもっと本気で文化祭に向き合ったのに。って思ったけど、山石君はこうやって気構えられるのが嫌だから言わなかったんだろうな。言わなくて正解。
そして、文化祭の写真の中に何枚か私がピアノを弾いてる姿も隠し撮りされていた。いつの間に撮ったのか、全然気づかないうちに撮られてたみたい。ピアノを弾いてる私は真剣な顔で、不細工になりすぎてて思わず笑ってしまった。この頃はピアノを弾くこと自体が久々だったから、まだ慣れてなくて苦戦してたのがよく伝わってくる。ちゃんと声をかけてくれたら良かったのに。
でも、山石君の中で私のことが気にしてもらえる対象だったことが分かって思わず頬が緩んでしまった。
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