第49話 君の思い出と共に
私の隠し撮りはその後もいくつか撮られており、放課後の音楽室での練習の時にも撮ってたみたいだった。どの顔を見てもわざと変顔してんの?ってくらい不細工で、こんな顔の女の子を何度も隠し撮りするなんて悪趣味な男の子だ……次に会った時には怒ったふりしてしばらく口を利いてあげないぞ。でもそうしたら、きっと困った顔をしながらすぐに謝ってくるんだろうな。そんでもって、そんな様子を見てると面白くなっちゃってすぐに許しちゃうんだろうけど……山石君はとっても良い人だったからきっと天国に行ってるはずで、次に会うためには私も良い人になって天国に行けるようにしてないといけないなぁ。なんて考えて少しだけ姿勢を正したりなんかしてみた。
その後にはコンクールの写真や囲碁の試合会場の写真などが並んでいた。2人とも夢に向かってせっせと頑張ってた時期だ。でも、合間合間にはどこか見覚えのある景色や白い台の上に乗った盤面の写真が混ざっていた。最初、見覚えはあってもどこの景色だったか分からなかったけど、しばらく考えてハッと気がついた。病室から見た風景や病院の中庭の景色だった。それが結構な頻度で写っていた。あの頃は山石君は検査入院だとか大したことないとか言ってたけど、やっぱりかなり悪化してたんじゃない。変なところで強がりというか、心配かけさせまいとする子なんだから。もっと素直に教えててくれたらよかったのに。
それからはどんどん病院での写真が増えていった。ほとんど景色や盤面の写真ばっかりになってしまい、途中からは盤面の写真もなくなっていった。山石君がデートの時にこそっと、もう囲碁はしないと思ってた。と漏らした言葉が耳によみがえってくる。この頃にはもう退院できないだろうことに気づいてたのか。日付を見ると、まだ私がお見舞いに行けてなかった時だった。山石君はたった1人で、大好きなことを2度と本気でできない苦しみや弱っていく恐怖と戦ってたのか。そう思うと、考えてもどうしようもない後悔の念が湧き出て止まらなくなった。なぜもっと早くにお見舞いに行かなかったのか、もっと山石君にできることがあったんじゃないか、もっと早く色んなことに気づいてあげられたら……次々に湧き上がる言葉と感情に頭の中がぐちゃぐちゃになってしまい、そのまま眺め進めることができなくなって一旦目を閉じて深呼吸を繰り返した。
少し落ち着いたところで再びスマホに目を落とすと、山石君の笑顔や真剣な表情が目に飛び込んできた。これは、デートの時の写真だ。山石君が私と一緒に本とにらめっこしてる写真や先生と勝負してる写真、バザーで子どもたちに笑いかけてる写真、中庭で気持ちよさそうに目を瞑っている写真……きっとお母さんが隠れて撮っててくれたやつだ。それか、山石君がお母さんにお願いしたか。
それらの写真を眺めながら、山石君の嬉しそうな顔や楽しそうな笑顔を見ているとぐちゃぐちゃになってた頭がすっきりしてきた。もっとできることやるべきこともたくさんあったのかもしれない。けど、当時の私は自分にできることを一生懸命やって本気で山石君と向き合ってた。楽しい時間や幸せな時間を共有することだってできてた。そこには自信がある。だから、今ぐちぐち後悔しても仕方がない。後悔したことは天国で山石君に謝ろう。きっと山石君はちょっと困ったような笑顔で、気にしないで。って言ってくれるはず。そう思い直してスクロールを進めた。
一つ一つの思い出と共に、楽しい気分に浸ったり、後悔に苛まれたりしなから写真フォルダを眺めていると、ついに最後のファイルまで到達してしまった。そこには2本の動画が並んでいた。トップ画を見る限り、2本とも病室で自撮りしたものみたいだった。スマホを病院のベッドの足の方に固定していて、山石君がベッドの上で再生ボタンを押している場面だった。
これまで見たファイルは全て写真だったので最後だけ動画が撮ってあることに胸騒ぎを覚えながらも、片方の動画の再生ボタンを押すと、懐かしい山石君の声が久しぶりに聞こえてきた。
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