第13話 君の姿を見て燃え上がる私の決意

「また同じ天井……」

 そりゃそうか。自分の家だもの。

 いつもと変わらない朝。良い天気。でも、いつもと違って目が冴えて起きてしまった。

 楽しみなのか緊張なのか分からないけど、一緒に文化祭を回るってなんか……デートみたいというか……ねぇ?

 いつもより丁寧に支度して、少しだけ編み込みを作ったりなんかしてみる。意識してるみたいだからやめた方がいいかな……けど、山石君はそんなこと全然気づかないだろうな。山石君のちょっと猫背な姿を思い出して1人で微笑してしまう。うん、大丈夫。ちょっとオシャレしたところで、きっと山石君はこれっぽっちも変わらずいつも通りなんだろうな。

 文化祭2日目。クラスの出し物の担当時間が終わり、山石君との約束の時間がやってきた。一旦トイレで身だしなみを整えてから集合場所に向かう。山石君は先に着いて落ち着かなさそうに待っていた。

「お待たせ!なんだかソワソワしてたけど、何かあるの?」

「あぁ、いや……文化祭ってこんなにワイワイした感じなんだなって思って。」

「そう?中学の時は違ったの?」

「……中学の時は病気がちで、文化祭に出たことなかったんだ。」

 出会った頃にそんなことを言っていたような気がする。

「そっか、じゃあ今日はいっぱい楽しんで中学の分も文化祭堪能しなきゃね!」

 勝手の分からない山石君を引っ張って文化祭をエスコートしてあげることになった。出店やステージ発表、各クラスの出し物など一通り回ってみると、山石君は目を輝かせながら笑ったり驚いたりして、首から上は明日筋肉痛になりそうなぐらい目まぐるしく動いていた。

 最後に部活動の展示スペースに立ち寄ってみると、例の囲碁が得意な体育の先生とばったり鉢合わせてしまった。

「おぉ、山石君、丁度良いところに!今、囲碁将棋同好会が大変なことになっててね。どこからか在校生に山石七段がいるって噂が流れたみたいで、対戦希望者が殺到してるんだよ。ちょっとだけでいいから打ってやってくれないかな?」

「いや、でも今は僕……」

 山石君がチラッとこちらを見る。文化祭は一通り見終わったし、みんなが求めてる山石君を独占しちゃうのも申し訳ない。

「いってらっしゃい。私もちょっと見てるから。」

 背中を押して送り出す。山石君は謝るように小さく頭を下げてから先生に連れられて囲碁将棋同好会の体験会場に入って行った。律儀なやつめ。

 会場内では十数人も順番待ちをしていて、同好会のメンバー達が説明に奔走していた。そこに山石君が登場すると、歓声がわっと巻き起こり会場の熱気が一気に上昇した。山石君は思ってたよりも人気者だったみたいだ。

「さぁさぁ、待ってる人もいるし多面打ちでお願いしましょう。山石七段、何人いきますか?」

 例の体育教員が鼻息荒く仕切り始めた。ちゃっかり座ってる椅子は山石君との対局席なんだけど。山石君と打ちたくて噂を流したのがこの人なんじゃないかと疑ってしまう。

「じゃあ……待ってらっしゃる方全員で結構ですので、それぞれ希望の置き石を置いていってください。」

 会場が一瞬どよめき、急いで盤と石が用意される。十数人相手にするのは珍しいことらしい。

 こうして多面打ち会場が急遽用意され、山石君の挨拶と共に対局は始まった。山石君はくるくる回りながらどんどん打っていくが、ほとんど考える間も無く打っているんじゃないかと思うほど滑らかに打ち回っていく。でも、体育教員をはじめ対局している人々の反応を見ると、やっぱりかなり強いみたい。みんな同じように腕を組んでうんうん唸っている様子は面白かった。

 時折対局相手を褒めたり、アドバイスしたりする姿もあった。こんなに積極的に人と関わることができるのを初めて知った。やっぱり囲碁を打ってる時の山石君は別人で、とてもキラキラしていて本当に囲碁が好きなんだということが伝わってくる。見ているこっちまで顔が緩んでしまいそうなほどだ。

 やっぱり好きなものを好きなだけやるのっていいなぁ。自分の中にずっと燻っていてなかなか消火し切れなかった想いに燃料が投下されたような気がした。文化祭の準備が始まってから、いや、きっとあの音楽室からふつふつと燃え上がり始めていた気持ちが、だんだん大きくなっているのを感じていた。私もやっぱり好きなものを突き詰めたい、表舞台に返りたいという想いは、もう止められないくらい膨れ上がっていた。

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