第14話 私は君と肩を並べられるようになりたい
結局、山石君の対局が終わるまで囲碁将棋同好会の片隅に席を陣取らせてもらっていた。山石君は30分ほど打ち続けたかと思うと、対局相手が次々に投了していった。例の体育教員もかなり粘ったようだったが、最後は負けたみたいだった。けど、満足したのかツヤツヤした顔で職員室に帰って行った。やっぱりこの人が打ちたくて山石君をおびき出したに違いない。この顔で疑惑が確信に変わった。だからといって、どうするということもないんだけどね。
最後の1人の感想戦を手短に行うと、やっとのことで山石君は解放された。かと思ったら、その後も質問攻めにされたり、もう1局打たされそうになったりする中を、何とか抜け出してきた山石君と一緒に文化部の展示をさらっと見ながらクラスに帰ることになった。
「ごめんね。結局ずっと待ってもらって、文化部の展示もあんまり見れなかったよね……」
「ううん。全然気にしないで。むしろこっちからありがとうを言いたいくらいだよ。」
「えぇ?待たされたのに?そういうことされたい趣味の人?」
「そんなわけないでしょ!」
「いや、僕は人の趣味には寛容な方だから隠さなくてもいいんだけど……」
「違う違う!山石君のおかげで決心がついたの。」
「決心というと?」
「山石君は囲碁やってる時きっととっても楽しいでしょ?すっごいキラキラしてたもん!そんな姿を見てね、私もキラキラした自分になりたいなぁって思ったの、強く。だからね……」
いざ口に出そうとすると思っていたよりも覚悟が必要でためらってしまう。けど、山石君はいつもの優しさで私が言いたいことを言えるまで待ってくれてる。
「だから、ピアノ……のコンクールに出てみようかなって。まぁ、勢いで思っただけだからすぐにどうこうってわけじゃないんだけどね!まだまだリハビリも必要だし!それに思いつきだからすぐにやる気なくなるかもだしね!」
なぜか途中で恥ずかしくなって、後半は早口でまくし立ててしまった。山石君は黙ったまま表情を変えずに聞いていたが、話し終わった途端に満面の笑顔になって何度も頷いていた。
「うん!……うん!森野さんはきっとまたピアノを弾くと思ってた!音楽室でも合唱の時も森野さんとってもキラキラしてたから!」
まるで自分のことのように嬉しそうに話している様子を見ていると、山石君に話して良かったと心から思えた。
「じゃあ、私の最初の目標は山石君よりもこの学校で有名になることにしよ。この文化祭でちょっとリードされちゃったけど。競争だよ。山石君も負けないように頑張って成長するんだよ。」
お爺様のお言葉を少し拝借させてもらう。山石君も気づいたようで、少し笑いながら真面目な目をして見つめ返してくる。
「分かったよ。森野さんに負けないようにもっともっと勝つよ。」
お互いに宣戦布告し合ったことで少し戦友になったような気がして、どちらからともなく拳を出し合ってグーをぶつけ合う。私達はどちらも一回挫折しそうになった者同士だ。それでもこれから頑張ってのし上がっていくんだ。私達はまだまだこれからなんだから。
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