第7話
そしてやってきた放課後。
俺とめあは公園に向かって歩いていた。
「けいちゃんのっ、イマジナリーガールフレンドとっ、イマジナリー面会っ」
「そんなこと言ってられるのも今のうちだぞ」
スキップのリズムに合わせてポニーテールが宙を舞う。髪質のためか、めあのポニーテールはワイドに広がる傾向があり、まるで書道家の豪快な筆先のような揺れ方をする。
めあは鼻歌まじりに言う。
「ふーん。じゃあもし嘘だったらー……1ヶ月帰り荷物持ちね?」
「わけのわからん罰つけられてもなあ。残念ながら本当なんだよなあ、これが」
俺は余裕の笑みで返す。
「トンネル、パソコン、株式投資、金髪碧眼、香川県民……どれかひとつでも違ったら荷物持ちだよ?」
「へいへい、全部揃ってますよ。あーあ、そんなペナルティなんて考えてる時間あったら面白い漫画の設定のひとつやふたつ思いついてたかもしれないのに。常磐金成さんが泣いてるぞ?」
「時は金なりは人名じゃないって」
☆☆☆
そんなプロレスで戯れるうち、いつのまにか公園に到着していた。
「じゃあ……さっそく行きましょっか」
公園の中へ入り、例のトンネルがある遊具の方向かう。
「公園の中まで入るのなんてわたし、数年ぶりかも」
「そうなのか。まあ大きくなったら公園に用なんてないもんな」
「なんだか子どもに戻ったみたいな気分になるなー」
トンネルの目の前に辿り着く。
今思えば、トンネルは地面から10センチ程度の高さに作られているので、大人だったらわざわざ覗きこまないかぎり中に人がいるかどうかは判別つかないだろう。
つまり、子どもたちが帰ったあと、ここは誰も寄りつかない落ち着いた空間となるので、作業スペースにはもってこい……なのかもしれなくもない。
俺はめあに声をかける。
「ほら、覗き込んでみろよ」
「……ふーん、ずいぶん自信ありげじゃん。じゃ、遠慮なくいかせてもらうよ」
挑発してきた相手に食ってかかる敵役みたいな台詞を口にしながら、めあは頭をトンネル内に突っ込んだ。
「……ほーら誰もいない!」
いない……ない……とトンネルの中で反響した声が聞こえる。
「え、いないか? おかしいな……」
「声めっちゃ響くんだけど!」
だけど……けど……ど……めあの声が広がる。
「わ! やっほー!」
わ……わ……っほー……ほー……と反響する。
「以外と楽しいかも!」
「童心に帰りすぎだろ」
ていうか……留守なのか? アルトアイゼンさん。その場合俺1ヶ月荷物持ちになっちゃうんだが……。
「——ソーヤ」
ふいに、背後から俺を呼ぶ高くて幼い声が聞こえた。
俺は振り向く。
そこには——虚無!? ……と思ったが視線をちょっと下にずらすと普通にアルトアイゼンさんが立っていた。
「……今、小さいとか思ったわよね?」
「いや……えっと……俺がデカいと思った……」
「ポジティブシンキングね」
ポジティブシンキングという言葉を『positive thinking』でなく『ぽじてぃぶしんきんぐ』と発音するところからも、彼女はやはり日本人なのだろう。
「ええと……その人は?」
トンネルから突き出た下半身を見て、アルトアイゼンさんは尋ねる。めあの姿はことわざかるたの『あ』の絵札みたいだった。
「けいちゃん!? どうかしたの!? 自分の声が反響してよく聞こえない!」
「トンネルから頭出せば解決するだろそれ」
「なんて!?」
俺はトンネルからめあを引っ張りだす。
腰というか骨盤が俺の両手にうまく引っかかってすぐに抜けた。が、めあの腰まわりが明らかに男のそれとは違う発達をしていることを改めて感じ、名状できない不思議な感覚というか、なぜか、少し寂しくなった。
「おっ、外だ。……けいちゃん? どうかしたの?」
「……いや、なんでもない」
この気持ちには踏み込まないほうがいいと本能で感じたので、ひとまず忘れることにした。
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