第8話

「あっ……え? は?」


 めあはアルトアイゼンさんの存在に気づいたようで、ネコのフレーメン反応みたいな顔をする。


「……マジじゃん」

「何度もマジだって言ったろ」


 めあはいまだに信じられないといった様子でアルトアイゼンさんをまじまじと見つめる。

 ただ、めあはもともとアルトアイゼンさんのことを聞いていたから、その上の衝撃であるが、アルトアイゼンさんにとってめあは何もかも新規の存在だ。

 そんなわけで——


「…………」


 アルトアイゼンさんは完全に硬直していた。

 俺が事前にアポ取っとけばよかった。ごめんよ。


「えっと……わたし、室戸むろとめあっていうの。公園に不思議な子がいるって聞いて、来ちゃった、みたいな」

「……あ、私はアルトアイゼンいこいよ」


 お互いぎこちなく自己紹介をする。

 ただ緊張しているだけなのか、しかし何か探り合っているような、ふたりの周囲には俺がこれまで経験したことのない、独特な空気が漂っていた。


「ま、まさか実在したなんて……あらためてびっくりだよ。えっと、憩ちゃんでいいのかな? この人とほんとに知り合い?」


 めあはそう言って俺に指をさす。


「え、ええ。知り合ったのはつい最近だけれど、仲良くさせてもらっているわ」

「ふうん。じゃあ、オトモダチってことね?」

「ええ、まあ」

「そっか。それにしても、ほんとにお人形さんみたいにきれいでかわいいね、憩ちゃん」

「あ、ありがとう」


 そんな褒め言葉、これまで何十何百人にも言われてるだろうに、それでも照れるアルトアイゼンさん。

 ……と、過去の俺なら思っていただろうが、たぶんそれは少し違う。話を聞いてる感じ、アルトアイゼンさんはいわゆる陽キャではないっぽいから、実は誰かに褒められ慣れてなかったりするのではないか。と、アルトアイゼン研究第一人者は思う。


「今日は驚かせて悪かったな。まあこいつ話しやすい奴だし、仲良くしてやってくれよ」

「あの……ふたりはどういう関係なのかしら?」

「俺らは幼馴染だよ。まあ腐れ縁ってやつだ」

「そうそう、死くらいしかふたりを分かつものがない、切っても切り離せない縁がね」

「……そ、そう」


 と、めあは俺の腕をやけに強くがっしりと組む。急にどうしたと俺が尋ねる暇もなく、間髪入れずにアルトアイゼンさんに告げる。


「それじゃ、わたしたちちょっとこれから用事あるから! 憩ちゃんも早く帰りなよ! またねっ!」

「……ええ。また会いましょう」

「オイ、用事とかあったっけ!?」

「いいから!」


 俺は無理やり引っ張られるようにして公園を後にした。

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