第五話 特訓の成果
リザの特訓は次の日から始まった。
魔力の吸収。それが特訓の最終目標だ。
吸収する魔力を感じるところから始めなければならないのだが、どうやらかなりの高難易度らしい。
「いいですかナディアス様。自分の魔力を簡単に感知できたのは、体と頭が自分の魔力の形を自覚しているからです」
「形……?」
「そうです!人によっては色や香り等で感じる事もありますが、自分以外の、外の魔力というのは全くの別物とお考え下さい。ナディアス様はご自分の魔力を感じ取った時、どのような印象でした?」
「黒くて、火みたいにゆらゆらしてたかな」
「分かりました。恐らくですが、外の魔力を感じようとした時、同じような、黒くて火の様なものを想像していた事が失敗した原因の一つです」
言われてみれば確かにそうかもしれない。
そういうものだと、勝手に決めつけていた。
そこにあるはずなのに、違うものを探そうとしていたのか。
「そうか…リザ、なんだか出来そうな気がする」
「さ、流石です!早速試してみましょう!」
原因が判明した途端、必ず出来るようになる、と謎の自信があった。
結果、全く進歩なし。
やっぱり、そう簡単にはいかないようだ。
リザに慰められながら、地道に練習を続けることにした。
ひとまずは他人の魔力が、一番簡単に感じ取れるとリザに教わったので、リザが休憩の時には常に一緒にいるようにした。
俺のやり方自体は合っていたようで、目を閉じ集中する。
けどその集中はものの数秒で途切れる。
「ねぇ、リザ?なんでいつも抱き抱えてるの?」
「これが一番の近道だからですよ。人の場合、近ければ近い程簡単になります」
練習の時は決まって抱き抱えられるが、これじゃ集中出来たもんじゃない。
だが、リザの貴重な休憩時間を使わせてもらっているからには、やるしかない。
今日はセーラとナナリーは村の中心地へ買い物に行き、ルーズはいつも通り仕事へ行っている。
それにリザも疲れていたようで、少し眠たそうにウトウトしている。
障害はゼロだ。
今なら、成功する予感がする。
「うっ、いて……」
どうやら限界が来たのか、リザのあごが俺の後頭部にささった。
とうとう眠ってしまったみたいだ。
毎日働き通しだからな、こういう日もあるさ。
だが、こんな体制じゃ集中も出来そうにない。
やっぱり今日はお休みにしよう。
俺もここ最近は休みなしに練習していたから少し疲れが出ていた。
「いつもありがとうリザ、おやすみ」
リザに感謝を伝え、俺も睡眠を取ろうと目を閉じた瞬間。
綺麗な草原の景色が頭の中に広がった。
何処までも続く、終わりが見えない草原に少しだけ恐怖を感じた。
「っ!なんだこれ!」
「ひゃ!?申し訳ありません!火はとめました!」
今感じたのはリザの魔力だろうか。
俺の魔力とは色もそうだけど、大きさが比にならない程だった。
「今、リザの魔力を感じ取れたかもしれない」
「……え、あ。ほ、本当ですか!?やりましたね、ナディアス様!ところで、私の魔力はどのように感じましたか?」
「よ、よく分からなかったから、もう一回試してもいい?」
「勿論です!」
何故あんなに苦労していたのか不思議なほど、次は簡単に感じ取ることができた。
家具や小道具、そして空気中に漂う魔力もだ。
そしてリザの魔力は綺麗な緑色をしていた。
大きさは俺より少し大きいくらいで、さっき見たイメージとは異なっていた。
きっと、初めて感じた自分以外の魔力に、驚いたんだろう。
魔力についてはまだ分からない事だらけだし、そういう事にしておこう。
「うん、ちゃんとリザの魔力、それに外の魔力も感じ取れるようになったみたい。リザの魔力は綺麗な緑色だったよ」
「ナディアス様にはそのように見えたのですね。綺麗だなんて、大変嬉しく思います」
リザの声のトーンは優しく、落ち着いていたが、耳と尻尾の激しい動きからかなり喜んでくれていることが分かった。
そんなリザによると、外の魔力についてはもう少し時間が掛かる計算だったらしい。
まぁ、早まるに越したことはない。
「では吸収の方法をお教えいたします。と言っても魔力の移動が出来たナディアス様でしたら簡単に出来るでしょう。外の魔力も御自分の一部だと認識し、自分の魔力の方へと移動させるのです」
「……分かった、やってみる」
あの時と同じように、目を閉じ両腕を広げ吸収する準備をする。
外の魔力も俺の一部、まずは手のひらへ。
外の魔力が手に纏わり付き、温度が上がりはじめ次第に腕、肩、胸へと順に腹の中心へ魔力が移動し始めるが、自分の魔力を初めて移動させたときの様な気持ち悪さはなく、移動した箇所が温まっていき、気持ちがよかった。
ついに自分の魔力に外の魔力が混ざり始め、食事をした時の様にお腹が満たされる幸福感から吸収に成功したことが分かった。
その証拠に自分の魔力が吸収前に比べ微量ではあるけど大きく変化していた。
「で、出来た……。成功したよリザ!ありがとふぬん!」
「おめでとうございます!さすがナディアス様、成長がお早いです!」
リザの手が両頬が包み込み顔が固定されたことで、顔を見てお礼は言えなかった。
でも喜んでくれている事が分かったし、まぁいいか。
その日を境に、暇さえあれば魔力を吸収する生活が、始まった。
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