番外編3 はじめての迷宮破壊

 一本道の洞窟型ダンジョン。

 低級モンスターしか存在しない初心者用ダンジョンとして有名な場所。

 ここはガサタウンの『母なる迷宮』、通称【第二迷宮】である。


「そらぁあ!」

「うぎゃっ!」


「だらあぁ!」

「ぽよん」


 冒険者たちが低級モンスターと戦っている。

 このダンジョンでは、ゴブリンやスライム、ジャイアントワームなど弱いモンスターがうじゃうじゃと湧く。

 雑魚モンスターを狙った初心者や比較的安全な副業として冒険者をやっている連中が、ここにはたくさんいるのだ。

 そういうやつらは武器の扱いや体捌きがどこかおぼつかないため、悪い意味で分かりやすいのだ。


 今回、俺がこの『母なる迷宮』に来ているのは、小銭稼ぎが目的ではない。

 この迷宮の最深部にいる迷宮主を討伐するためである。


「……やっぱりいるな」

「そうだね~」


 小声で腹ポケットの中のフォコと会話する。

 目の前にはギルドの紋章が刻まれた扉と退屈そうな門番たち。


「やっぱり餌の時間に潜りこむしかないか」

「そうだね~」


 緩い返事。

 緊張が解けてしまいそうである。


 この『母なる迷宮』の迷宮主は、大きな熊型モンスターらしい。

 個体名は、“大きく怠惰なものピグロ・グランデオルソ”。

 その特徴は、全迷宮主の中で唯一食事を行うこと。

 そのため、部屋の中に閉じ込めておけば、いつか死ぬ……かもしれない。

 しかし、ギルドが一日三食の食事を届けているのだ。


「……くそったれめ」

「そうだね~」


 遠目から様子をうかがっていると、後ろから気配を感じる。

 時間である。


「……【深く、透き通れ】」


 完全なる透明化。

 師匠曰く、この状態の俺を五感や魔力感知で認識することは不可能であるらしい。


「重てぇーなー」

「本当だよなぁ。早く出世したいぜ」


 大量の餌を手押し台車で運ぶギルド職員が二人やってきた。

 リンゴ、モモ、カキ、ミカンなど、大量の果実と鳥や牛の死体が載せられている。


 ゆっくりと扉の方に台車を運びながら歩いていくふたりのギルド職員。

 台車に向かって走る俺。

 透明化が効いている以上、息をひそめる必要すらないのだが、やはり緊張する。

 リンゴに塗り込んだのは、猛毒の葉から絞った毒液。

 一仕事終えた俺は、すばやくその場を立ち去る。


「ぷはぁ」


 岩陰に隠れたところで透明化が解除されてしまう。

 完全なる透明化には、大量の魔力を消費するのだ。


「おつかれさまです!」

「です!」

「ごくろう」


 門番と運搬役のふたりが会話をしている。

 何十回、何百回も繰り返した営みなのだろう、不自然に思っている様子はなさそうだ。


「ごくごくごくっ……【透き通れ】」


 魔力回復ポーションを飲み、通常の透明化状態になり、その場を立ち去る。

 経過を確認したいが、リスクはできるだけ排除しなければならない。


 数日後、ガサタウンにあるとある街中。

 迷宮主が死に、【第二迷宮】の機能が失われたという報せが街全体を驚かせていた。


「やっと一つ目か……。体が動くうちに全部壊さないとな」

「そうだね~」


 街を騒がしくしている『母なる迷宮』崩壊のニュース。

 それを聞きながら、俺は次の街へと旅立つ準備を進めていた。



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