第42話 修行の日々
四姉妹が聖なる力の修練を開始してから、数日が経っていた。
「美味いか? フォコ?」
「まあまあ~」
おんぼろ小屋の中でいつものように、サンドイッチと果実水で朝食を済ませる。
今日もまた、四姉妹は修行にいそしむ予定らしい。
俺はというと、最近は気配感知の精度向上や体力強化を目標にして、森の奥で自主トレの日々であった。
なので、彼女たちがどれだけ成長しているかの詳細は知らない。
夕食中の会話を聞いている限り、順調であることは疑いようがなさそうだが。
成果の確認……といよりは純粋な興味を動機として、俺は本日の修行を見学することにした。
修行の舞台となる広場には朝陽が差し込み、姉妹たちはしっかりと集結していた。
四人は白い岩の周りに座り込み、魔力を練っているようである。
金色、緑色、水色、茶色。それぞれの魔力が色彩豊かに昂っていた。
少し離れたところで、俺と師匠はその様子を眺めている。
「昨日のこと、思い出すだけでワクワクするわね!」
ソルディの興奮気味な声が聞こえてくる。
「確かに、あの不思議な感覚は忘れられないね」
レグナが意味ありげな言葉をつぶやく。
楽しそうでなによりである。
「お嬢ちゃんたち、驚くほど飲みこみが早いぜ」
師匠が笑みをつくりながら、話しかけてくる。
くっくっく、と笑う様子から師匠も楽しんでいるようである。
「そりゃよかった。俺も、あいつらの成長速度にはいつも驚かされているよ」
「それに……あの子の魔力は……」
「……分かってる。けど、本人は何も言ってこない。だから、俺も特に触れてない」
「そうか……。まあ、それがいいのかもしれんのう」
師匠の目線の先はソルディ。
限られたものにしか許されない金色の魔力。
「そいじゃあ、師匠面してこようかのう」
「……うん。お願い」
少々重苦しい空気になってしまったが、師匠は軽い声とともに姉妹の方へ歩き出す。
多分、これでいいはず。
今はそう思うしかない。
「おじいちゃん! 今日は何をすればいいの?」
姉妹たちの表情からは期待に胸を膨らませている様子が確認できる。
ここ最近、毎度のことだが、呼び名に若干の違和感がある。
おそらく師匠がいつものようにてきとうなことを言ったのだろう。
「まずは、心を穏やかに整え、周囲の生命力に注意を払ってみておくれ」
師匠の指示はあいまいなものに思えたが、姉妹たちは即座にうなずいていた。
四人は目を閉じ、深呼吸を繰り返している。
周囲の自然の息吹を感じとることに励んでいるのだろう。
すると、風のさざめき、木々のざわめき、小さな生き物たちのささやきが彼女たちを包み込んでいく。
気配感知を習得していなければ、今ここで何が起きているかも分からなかっただろう。
「すごいです……まるで、森と会話しているような」
ラクアが力強く驚きの声を上げる。
「よし、では……」
師匠はうなずき、優しい声で次の言葉を紡ぐ。
「収束しておくれ」
その後、姉妹たちは慣れたように魔力を両手に集める。
いつもの荒々しい輝きではなく、淡い光の粒子のような魔力。
「……発散」
全員が手を上げて、魔力が空に向かって放出される。
ソルディは金色の魔力を、レグナは緑色の魔力を、テラは栗色の魔力を、ラクアは水色の魔力を放つ。
四つの魔力が上空でぶつかる瞬間、白い岩が微かに輝きを放ち、周囲の生命力が一瞬、大いに活気づいたような気配がした。
「やった! これはもう完璧ね!」
ソルディが喜び勇んで叫んでいる。
ほかの姉妹も嬉しそうに顔を見合わせていた。
(聖なる力を含んだ魔力……か?)
魔力そのものを放出する技術は、訓練さえすれば比較的容易に習得可能である。
ただし、ほとんど意味がないと言われている。
攻撃対象が人間の場合は、魔力過多の状態にすることができるかもしれないが、相手が酔ってしまうほど大量の魔力を消費するのに見合うとは言い難いからである。
モンスターは基本的に魔力抵抗が高いため、そもそも通じない。
しかし、聖なる力を含んでいれば効果は絶大なものになるだろう。
(モンスターに捕らわれている人を救出する……なんてことに使えそうだな。少し、限定的すぎる気もするが……)
いろいろと考えてみたはいいが、彼女たちの修行はまだ始まったばかりである。
実際に魔法を使用してみたり、動く的に当てる訓練をしたり、聖なる力を含んだ魔力添加を試してみたりと少女たちの修練は続いていた。
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