第35話 モマクトよ、さらば
少々、いや、かなりのイレギュラーはあったが、俺たちは無事にモマクトタウンの『母なる迷宮』を破壊することに成功した。
そして、ここは姉妹たちの部屋。報告会ではなく、今後の展望についての話し合いを行っているのだ。
「今回は、もうしばらく滞在しなくていいの?」
前回の経験を踏まえると、ソルディが疑問を呈すのも当然だろう。
「ああ。一週間経ったし、十分だと思う。それに——」
一週間。腹の傷やらが、活動可能まで快復するまでかかった日数である。そして。
「——サガナキ、モマクト、イオオタの『母なる迷宮』が機能を失ったことを、ギルドが公に発表した」
「あれ? イオオタタウンの『母なる迷宮』も破壊されたのかい?」
意外なことを聞いたというふうにレグナが反応する。
「さっき、ギルド職員に聞いてきた。イオオタの迷宮主を倒した……というか、外から迷宮主の部屋ごと爆破して、弱ったところを大人数で襲ったんだとよ……。まあ、それだけ派手にやったんだ。当然だが、全員逮捕されたらしい」
「外国の人たちだったのよね? 何でわざわざ『母なる迷宮』を壊しに来たのかしら」
情報を知っていたのか、犯人たちについてソルディが触れる。
「詳しいことは分からんが、外国にも『母なる迷宮』らしきものはあるらしい。ダンジョンの独占、みたいなカルト集団もいるらしいしな。あんまり、深く考える必要はないと思うぞ」
「まあ、そうね」
ソルディはあっさりと同意してくれたようだ。
「それと、敵の敵ってだけで、味方じゃない。協力するつもりは微塵もないが、タイミングは……かなり都合よかったな」
今回の【第四迷宮】破壊も、外国の奴らの仕業だと思ってくれればありがたいのだが……。
「あっ! そういえば、もうイオオタタウンには行かないの?」
「……? ああ、用がないしな」
ソルディが突然大声を出したため、意表をつかれてしまった。
「そんなぁ。温泉、楽しみにしてたのに」
「シュウキュウ一の温泉地帯だっけ。僕も少しだけ興味があったな」
ソルディが風呂好きなことは知っていたが、ここまで落ち込むとは思っていなかった。とりあえず、話を続ける。
「……正面突破しか能がないと思わせたのもでかいし、サガナキとモマクトの件も、外国の仕業だと考えるのが自然だと報道されてる」
「そうですね。そう書いてありました」
ラクアも発表を知っていたのだろうか。俺の言葉に同意する。
「だけど、ギルドの警戒が最大限になってしまったのも事実だ。しばらく、活動を控えようと思う」
「えっ……ダンジョン探索に行かないってこと?」
「いや。野良ダンジョンには潜ってもいい。ザヤミキに行くのを遅らせようって話だ」
次の目的地であったイオオタタウンの【第五迷宮】が破壊されたため、ザヤミキタウンの【第六迷宮】へと向かうのが本来ならば自然な話である。
「なるほどね。理解できたよ」
「それで……どのくらい待つの? 一ヶ月くらい?」
「いや、もっとだ」
「2ヶ月? まさか、半年とか言わないよね」
「もっとだよ。2、3年くらい『母なる迷宮』に挑戦はしない」
はっきりと言い切る。
「……は……っ?」
「な、何でそんなに長いのよ!?」
レグナはすごく驚いたような顔をして短く声を出し、ソルディは戸惑いながらも噛みついてくる。ラクアは困惑したように無言。
「理由は大きく二つ」
「聞かせてください」
真剣な表情で続きを促すラクア。
「ひとつ目は、今後……おそらく一年程は『母なる迷宮』への探索自体がかなり警戒される。半年間、【第十迷宮】を除いて、全ての『母なる迷宮』への侵入が禁止された。それと、探索再開後も免許証のチェックと探索の出入記録義務化が決定されたらしい」
これは、犬系獣人の受付嬢が教えてくれたことである。口が軽すぎて、若干信用に欠けるが、嘘をつくメリットも特に見当たらなかった。それはそれで心配になるが。
「もうひとつは?」
レグナがさらに続きを促す。
「今回、俺は実力不足を痛感した。空のオーブが無ければ、全員死んでいた可能性もある。だから、しばらく鍛え直したい」
「「「……」」」
姉妹たちが聖女というのは、本当のことだったらしい。聖なる力に対しての抵抗力があったのだ。もし、彼女たちにそれがなかったとしたら、あの戦闘は取り返しのつかないものになっていた。だから、もっと強くなりたい。
「もしも里帰りとか、そういうんで一時離脱するなら、自由にしてくれてかまわないし——」
「——里帰りなんて……帰る場所なんてないわよ」
「鍛えるにしてもどこで鍛えるんだい?」
若干不穏な言葉が聞こえた気がするが、レグナがすぐに質問をし、空気を変える。深く追求はせずに、レグナの考えに従う。
「オクフカにいこうと思っている。俺の……戦闘面での師匠がいるんだ」
「へえ……」
出来れば厳しい修行などもうしたくもないが、背に腹は変えられない。
「半年後、すぐに挑戦ってのも怪しまれるだろうし、迷宮への出入り記録なんかの対策も考えないとないけない」
「……まあ、そうね」
不満げではあるが、一応納得してくれたらしい。ソルディは頬を膨らませている。
「それに、強くなるには時間がかかる」
こいつらならば、目の前の少女たちならば、もしかしたらあっという間に強くなってしまうのかもしれないが。俺は、平凡な才能すら持ち合わせていないのだ。
「新しい武器を手に入れるにしろ、今ある武器を磨くにしろ、俺には時間が必要なんだ」
「分かったわ。じゃあ、すぐにオクフカタウンに向かうの?」
「いや……」
「「「?」」」
「どうせ、時間はあるんだ。イオオタに向かって、温泉にでも浸かってからにしよう」
精一杯のご機嫌とり。
「本当!? 聞いたからね! 嘘ついたら鉄柱100本だからね!」
やった、やったと喜ぶソルディ。これだけ喜んでくれるのならば提案した甲斐があっただろう。
後ろのベッドで爆睡しているテラが起きていたら、また——扱いが上手くなったネ——と言われそうである。
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