第25話 探索再開【第四迷宮】
現在、俺たちが探索中のダンジョンは、モマクトタウンの『母なる迷宮』。この国に10しか存在しない『母なる迷宮』のうち、【第四迷宮】と称されるダンジョン。
空調服を手に入れたパーティは、快進撃と言っても差し支えない速度で、このダンジョンを攻略していた。
前衛組は、7階層にある小部屋の一つで
「——もう7階層か……そろそろだな」
「そろそロ?」
俺の独り言に近いつぶやきに反応したのは、
「運が悪ければ、ここらへんから
「マグマドラゴン……先日、教えていただいたモンスターですよね」
マグマドラゴン。体の大部分がマグマで構成される竜型の中級モンスター。滅多にお目にかかれない
「情報は頭に入っているが、俺も戦った経験が無いからな。とりあえず、一戦交えておきたい。迷宮主との前哨戦にちょうどいいしな」
「遭遇しないならそれが一番なんじゃないノ?」
テラの疑問は当然のものである。だがしかし。
「これから先、一回も遇わないってんならそれでもいいが……大抵は、遇いたくないときに現れるもんだ。余裕があるときに、実際の特徴を見ておきたい」
「……遇いたくないとき、とは?」
「余裕が無いとき、だな。他のモンスターに囲まれているときとか、撤退中とか、横穴から突然とか」
控えめにこちらを見上げるラクアの質問に具体例とともに答える。
「なるほど。ありがとうございます」
「やばそうだったらすぐ逃げるからな。ソルディにしろ、レグナにしろ、まだやれるとか言いだしても、無視して捕まえてくれ」
「おっケー」
ゴーレムに乗せて撤退というのは、話し合ったプランの一つである。緊急時、フォコに全員で乗るのはリスクがある。スピードがあまりでないのだ。最悪、俺が走ればいいが。それは、何故か反対された。
「うりゃあぁ!!」
聞こえてきたのはソルディのやる気に満ち溢れた掛け声。
がきんっ! ばりっ!
大きな音とともに火花が散る。ホットストーンマンの石の体をソルディのハンマーが粉砕したのだ。
「やったわ!」
左手にハンマーを、しっかりと握った右手を頭上に上げ勝利宣言するソルディ。
大型の中級モンスターにとどめをさしたのはソルディだが、レグナも長剣でホットストーンマンの注意を引きつけ、ソルディが戦いやすい環境を整えていた。
良い連携である。いちいち教えなくても、彼女らは自分で考え最適解を模索している。
満面の笑みでピースサインをこちらに向けるソルディと、まだまだ余裕だよと言わんばかりに顔に手を当てるレグナをこちらに手招きする。
二人は素直にこちらに歩いてきてくれた。
「なーに?」
「休憩かい? 僕はまだまだ大丈夫だよ」
「二人とも、上出来だ」
「えっへん!」
「当然だね」
短い言葉で二人を労い、近くに呼び寄せた目的である本題に入る。
「全員座った状態でいい、聞いてくれ」
誰にも聞かれていないか、一応周囲をぐるりと見回す。確実に、この場には誰もいないことを再確認する。
「……これまで出会ったモンスターは、全て討伐できた。残りのレアモンスターに遭遇して討伐できたら、迷宮主に挑もうと思う」
ごくり。唾を飲み込む音が、誰かの喉から発せられる。妙に静かになってしまったため、そんな小さな音でも鮮明に耳に届く。
「……いよいよね。腕がなるわ」
「そうだね。リベンジ……と言っていいのかな。とにかく今回は役にたってみせるよ」
「……今度は……今回は、誰かが怪我をしても私が癒してみせますっ」
「オー、がんばロー」
四者四様の発言。全員……テラでさえ、明らかに肩に力が入りすぎているように見えた。無理もない。しかし、表情の差こそあれど、全員の言葉と瞳から確かな覚悟を感じることができた。
「こう言っておいてなんだが、すぐに挑みに行くってわけじゃない。幸い、ここの迷宮主の情報は公式記録が残ってるしな。準備も万全にするつもりだ」
落ち着かせるために、この雰囲気にわざと水を差すような発言をする。
「そうよね……。準備は大事よね」
ソルディがうんうんとうなずく。
「ああ。このダンジョンのレアモンスターを二体とも討伐できたら、情報を頭に詰め込む日と準備の日をとろう」
「はいっ。分かりました」
「それと、迷宮主に挑むってことを人前で言わないように気をつけてくれ」
「はーイ」
ラクアとテラがそれぞれ返事をくれる。
「さてと……」
「レアモンスターを探しに行くんだね。当てはあるのかい?」
立ち上がろうとした俺に、レグナが声をかけてくる。
「無いな」
「無いの!?」
断言する俺に驚いたのか、ソルディが悲鳴をあげるように叫ぶ。
「ああ、一切無い」
「一切カー」
抑揚の無い声で、俺の言葉の一部分を繰り返すテラ。
「レアモンスターは出て欲しいときには、なかなか出現しない」
「……遭いたくないときは、結構遭遇するんですよね」
「ああ。俗に言う物欲センサーだな」
ラクアの確認に冗談めかした言葉を返す。
「旦那が運悪いだけじゃなイ?」
数秒の沈黙。
「…………行くぞ」
「否定はしないんだね」
レグナの声に反応はしない。なぜなら、自覚があるから。
結局、この日は、日が落ちるまで探索を続けたが、レアモンスターに遭遇することは出来なかったのである。
なぜだか少女たちによる憐憫の視線が突き刺さったのは、気のせいであると思いたい。
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