第24話 休みの日

 今日は、ダンジョン攻略休業日。姉妹たちには、「自由にやりたいことをやってくれ」と言ってある。


 ソルディとレグナは、ショッピングへと出かけて行った。服やら本やらスイーツやらを見て回るらしい。気分転換にちょうどいいだろう。

 

 ラクアは、教会へお祈りに行くと言っていた。敬虔な信徒というやつなのだろうか、具体的に何をするのかは聞いていない。


 テラは、寝室。寝ている。


 俺はというと、サガナキタウンの宿屋街にある武器屋の店主——モヒカンの紹介状を活用して、小さな武器屋におじゃましていた。さまざまな効果を持つ矢を創作するためである。


 俺が通されたのは、小さな武器屋にある奥の部屋。店主の弟子たちの作業部屋である。


「フライングフロッグの舌か……どんな効果があるんだい? たしか、あいつらは状態異常を誘発する攻撃なんてしてこないよな」


 立派な髭を触りながら、俺の作業の様子を見つめるドワーフ。この筋肉質な男性が、モマクト都市部にある武器屋の店主である。


「分かりません……とりあえず、新しい素材は全部試すことにしてるんですよ」

「なるほどなぁ。面白い効果があったら教えてくれよ。武器の参考にするかもしれん」

「はい。分かりました」


 俺の返事を聞いたあと、ドワーフの店主は太い腕を振りながら、部屋を出ていった。


(さて……)


 両手に魔力を纏わせながら、フライングフロッグの舌と竹を特別な矢筒に近づける。瞬間、矢筒よりも遥かに大きいカエルの舌と矢にぴったりなサイズの竹が筒に吸い込まれる。


 きんっ。


 金属と金属がぶつかりあったような音とともに、筒から矢尻が白の矢が吐きだされる。


「……はぁ」


 外れである。白色の矢尻は、何の効果も持っていないという証。


 矢尻のかたちは、上から見るときれいな三角形である剣尻。そのため、普段使いとしては有用なものである。


 一応、普段使いの矢筒に今回の創作物を入れる。出来たものを中々捨てられないのは、俺の悪い癖である。


 頭では悪癖だということを分かっているのだが、どうにも不思議な愛着が邪魔をし、いつの間にか手放せないようになっている。厄介であり、なんとも妙な話だ。


 失敗というより、会心の出来ではなかった矢を眺めながら、めげずに素材と竹に魔力を込める。


 きんっ。きんっ。きんっ。


 狭めの部屋に、特別な矢筒——魔女商店のオーダーメイド品から小気味のいい音が鳴り、反響する。


 ******


 ——この日は結局、稀有なドロップアイテムもいくつか消費したにも関わらず、会心の出来と呼べそうな矢を製作することは出来なかった。


 今日一番の出来だと言えそうなのは、炎の粘体が落とす炎の粘核を使用して製作した《高熱の矢》であろうか。


 しかし、モマクトの『母なる迷宮』——【第四迷宮】に出現するのは、熱に耐性を持つモンスターばかりである。有効性は期待できないだろう。


 そんなこんなで、今日の成果には納得いったとは言いがたいが、良い気分転換にはなったと思う。


 俺は、店番をしていたドワーフの店主に部屋を貸してもらったことの礼を言って、宿屋に戻ったのであった。

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