第22話 炎の粘体と集団戦
野良ダンジョンに存在する小部屋の一つ。テラのゴーレムに入り口の監視を任せて、俺は少女たちの戦闘を見守っていた。
「はっ!」
フレアスライムに向かって長剣を振るうレグナ。その長剣はフレアスライムの核を正確に捉え、両断する。両断したモンスターの数は、ゆうに10を超えるだろう。
長剣の扱いはもう熟練の域に達しているのではないだろうか。ひらめく剣先は、ときおり霞んで見えることがある。
「どりゃーっ!」
マグマスライムの核がハンマーの強撃によって粉々になる。
ハンマーを振りだしてから、一ヶ月も過ぎていないというのに、ソルディのハンマーさばきは見事なものである。自身の身長より少しだけ小さい、それでも少女にとっては大きく扱いにくいだろう槌。
そう考えているうちに、再びソルディが振るったハンマーが地面にくぼみを作る。この部屋の地面には、そういったくぼみがたくさんある。
(……二人とも、異常に成長が早くないか?)
内心で驚いているのは彼女たちの成長速度。
聞けば、近接戦闘の訓練などほとんど経験したことがないらしいのだが、彼女たちはもう十分に強い。思いつきで前衛を勧めてみたのだが、二人はもうすでに、どこのパーティでも通用するレベルであろう。
(——亜人……とはいえ、ハーフだよな?)
レグナの眼もソルディの怪力も、俺の想定より何倍も優れている。
普段、ダンジョン内で目にするエルフやドワーフの冒険者。その先達たちよりも明らかに動きがいい。
(まあ……弱いよりはいいか)
正直な話、前衛職が合わないならば他の方法も考えようと思っていた。その必要がなさそうなことに、一ヶ月も経たないうちに気付かされたのは嬉しい誤算である。
後衛組の二人、ラクアとテラは暇そうにしている。かく言う俺も手持ち無沙汰であることを否めない。
「……フォコ、一応聞くけど、希有モンスターの匂いは?」
「しないねー。この近くでは産まれないと思うよー」
熱が心地よいのか、ポケットから出て、足元でくつろいでいるフォコ。聞きたいことは聞けた。
「そうか……よし、ラクア、テラ。お前らも戦闘に参加していいぞ」
「えっ? 治癒は大丈夫なのですか?」
「ウチは見学でも大丈夫だヨー」
ラクアが心配しているのは、回復魔法の準備について。前衛組が怪我や火傷を負ったときに、すぐに治療できるよう準備しておくのが彼女の役目である。
「構わない。ポーションなら、たくさんあるしな」
「旦那ー」
抑揚のない声は、一旦スルーする。
「いい機会だ。後衛として、前衛の動きを邪魔しないように【水の魔法】や【土の魔法】を練習してみてくれ」
「ウチはゴーレムの——」
「周囲と入口の警戒は、俺とフォコが受け持つ」
「……分かったヨー」
テラは、渋々といった様子で提案を受け入れてくれた。
「何か、気をつけなければいけないことはありますか?」
不安と使命感が半々といった表情のラクアが問いかけてくる。
「……フレンドリーファイア、同士討ちさえ気を付ければ、どうにかなると思うぞ。後は……そうだな、足元を攻撃するのはやめた方がいい」
「足元……ですか?」
ラクアが不思議そうに、質問してくる。
「足場が削れると動きにくくなる。まあ、ソルディがクレーターを開けまくってるから今さらなような気もするが……」
「確かニ」
テラが納得の意を示す相槌をはさみながら、うなずく。
「水をぶつけるときは、気持ち上を狙って、水蒸気やらの影響を避けるために、遠くの敵を狙う方がいいかもな」
「分かりました。やってみます! では!」
ラクアの目にはやる気が宿っているように感じる。淡い青がめらめらと燃え盛っているようだ。あっという間に、彼女の体を水色の魔力が包みだす。
「【水よ、飛べ】」
水の塊がモンスターめがけて発射されだした。
「うーン。魔法飛ばすの苦手なんだけどナー」
ラクアの様子を見て、テラはつぶやく。その言葉に耳が反応する。その内容が意外だったからだ。
「……土の塊を発射したり出来ないのか?」
「途中で砂に変わってもいいなラ」
テラはさらりと言い放つ。
「それじゃ意味ないだろ……いや、すまん。出来るものだと勘違いしていた」
「別にいいヨ。じゃあウチは見学デ……」
本当に気にしてないのだろう。いつもと変わらない表情のまま、後ずさりするテラ。だが、逃がさない。
「ゴーレムに戦闘させていいぞ」
「そうくるカー」
意外だ、とはこれっぽっちも思っていないだろうテンションで、テラが言葉を発する。
「それなら、問題なく戦えるだろ?」
「戦えるけド……基本、自動行動だかラ」
「修練にならないと? マニュアル操作はできないのか? ……いや、意味が薄いか」
俺は、口に出して気づいてしまう。
自動で戦闘するゴーレム。単調な動きしか出来ない訳ではなく、初めて戦うモンスターの動きにも対応できるようなゴーレム。そんな高性能な代物を手動で操作するメリットがほとんどないのだ。
——それなら。
「ソルディ! レグナ! 足元の穴、埋めてもいいか!」
前衛組に届くように声を張り、確認する。
「いいわよ!」
「問題ないよ!」
元気な二つの声が返ってくる。
水の弾幕が降り注ぐようになった戦場でも、ソルディとレグナの戦闘速度は変わっていない。しかし、ソルディの開けた穴ぼこが足場を悪くしているのも事実だろう。
「テラ、いけるか?」
「……しょうがないナー」
テラの体を栗色の魔力が包む。ほのかに光るそれは、大地の重厚さを確かに感じさせる。
結局、この日は、4姉妹総出で戦闘を行った。その結果、半日ほどのダンジョン探索で、このパーティにおける過去最高額の稼ぎを叩きだしたのであった。
薄く月が出る夜の報告会が大いに盛り上がったことは、言うまでもないだろう。
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