第21話 空調服はこうかばつぐん


「ふはははーっ! 体が軽い! 涼しいっ!」


 緑色のポニーテールを揺らしながら、長剣を携えたハーフエルフの少女が躍動する。隣でハンマーを振るうソルディもその迫力に押され気味である。


 無情にも切り捨てられているのは、羽の付いた大きなカエル。中級モンスター、フライングフロッグである。


 カエルの灰と妖しく輝く魔石が、そこら中に散らばっている。


 本日、俺たちのパーティが訪れていたのは、大きめの野良ダンジョン。


 溶岩の存在しない洞窟型のダンジョンではあるが、火山の近くにあるためそれなりに熱がこもっている場所。空調服の効果を試すにはうってつけの場所である。


 そして、目の前には、絶好調のレグナ。動きが前に戻っただけではあるが、彼女のテンションは最高潮であった。


「空調服……そんなに涼しいのか?」


 珍しく年相応にはしゃいでいるレグナを見て、俺の口から純粋な疑問が発せられた。


「はいっ! とっても涼しいですよ」


 そんな問いに答えてくれたのは、隣で杖を構えるラクア。淡い水色のローブと合わさって、絵本の中に登場する魔法使いのようである。


「旦那も空調服にしないのカ? 涼しいゾ。聖犬サマ、ポケットに入れてるし……暑くないノ?」


 テラが俺の腹ポケットを指差しながら、首を横に傾ける。


「必要ない。俺もどういう原理かは分からんが、フォコ——聖獣の能力で、適切な温度に保たれるようになってるらしい。それで、【聖獣の加護】を受けている俺も快適でいられるんだ。フォコが近くにいるとき限定だけどな」


「ほエー、すごいんだなァ」


 自分から聞いておきながら、興味なさげにあいづちをうつテラ。興味が無いというより、理解をするのが面倒なのだろうか。


「さすが聖犬様ですね!」


 狐耳の少女とは対照的に、ラクアは目を輝かせて聞いてくれていた。


「ちょっとーっ! 置いてくわよ!」


 いつのまにか、随分先へ進んでいるソルディとレグナ。


「ああ、すぐ行く!」


 前衛組に置いて行かれるのは困る。俺たちは魔石をフラスコに詰めて、回収しながら、駆け足になったのだった。


 入り組んだ洞窟型のダンジョンには、必ずと言っていいほど存在する小部屋たち。俺たちはその一室のうち、遮蔽物が少ない広場のような部屋、その入り口付近で立ち止まっていた。


「一休みしたら、今日はここを狩場にしよう」


 横道に入っていく俺に素直に従ってくれた4人。テラから水筒を受け取り、全員、水分補給をしたのを確認してから俺は話し出した。


「最深部までは行かないの?」


 その中でも、ソルディはすこし意外そうな顔をしていた。


「ああ。この部屋でモンスターを相手にしよう。フラスコがいっぱいになったら帰るぞ。このダンジョンは、準指定迷宮だからな」


「準指定迷宮?」


 聞きなれないといった様子でソルディが口に出したのは、野良ダンジョンの分類。


「宝箱を開けるのに許可がいる野良ダンジョン。要するに、『そこそこ利用価値があるから勝手に壊すな』ってギルドが決めているダンジョンだ」

「めんどくさいわねー」


 呆れたように言い放つソルディに、俺は少なからず危うさを覚える。


「……同感だが、ギルドや他人がいる場所ではそういうこと言うなよ」

「気にしすぎじゃない?」

「心配性なんだよ」

「ふーん……まあ、分かったわ」


 ソルディはあの日以降、勇者の素養だなんだとは言い出さなくなった。気を使っているのだろうか。俺としてはその方がありがたいが。


「僕はもう十分休憩できたよ! 一足先に戦って来てもいいかい!?」


「だめだ。フレアスライムもいるし、一応全員で行く」

「むぅ。了解した」


 血気盛んなレグナを落ち着かせる。元気なのはいいことだが、炎を吐くモンスター相手には十二分な警戒をしておきたい。


「私はもう大丈夫ですよ」


「……無理しなくていい。ずっと気を張ってるだろ」

「……はい。ありがとうございます」


 【水の魔法】をいつでも放てるように、ラクアは明らかに気を引き締めていた。


 体力的に疲れていなくても、精神的にはきついだろう。もともと色の薄い肌が、いつにも増して、白くなっている。


「そうだゾ〜。休めるときはたくさん休むべきだゾ〜」

「テラは力抜きすぎじゃない?」


 ソルディが呆れ気味に言う。


「あはハ〜」


「……」


 岩壁に背中を預け、完全にリラックスしているテラ。


 ゴーレムの常時展開など、熟練の魔法使いでも簡単には出来ないはずのだが、こいつからは疲労の色をまったく感じない。脱力のコツのようなものがあるのだろうか?


 そんなくだらないことを考えたり、雑談を交えながら、俺たちは10分ほどの小休憩を終えたのだった。


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