第20話 ファッションショー
【第四迷宮】の視察を終えて、宿屋に戻ってきた。くたびれていた俺は、少女たちに無理やり、とある場所に連行されていた。
その場所は、宿屋の一室。姉妹たちの寝室。
なぜかそこで行われていたのは、新しい装備のお披露目会。
「熱帯気候でも快適! 砂漠地帯での使用実績あり!」というお触れ込みで作成された
「ふふーん! どうかしら!」
ソルディがいつものように胸を張る。
チュニックの色はいつものベージュから濃い青に変わっている。それ以外は、チュニックの上に銀色の胸当てといういつものスタイルに見える。しかし、通気性の為だろうか、チュニックや半ズボンはいつもより薄くなっているような気がする。
「……よく似合ってるんじゃないか」
「ど、どうでしょうか」
体をもじもじとさせながら、服を揺らすラクア。
彼女のシスター服は、いつもは白を基調としたものだが、今回の装備は、淡い水色を基調としていた。彼女の髪よりも、色が薄い装備は、魔法使いのローブによく似ていた。
「……よく似合ってるんじゃないか」
「旦那~。うちハ?」
テラはいつも盗賊のような軽装である。
栗色の装備は、緑がかった青に変更されている。今回の装備も軽装ではあるのだが、腹や腕などいつもは肌を露出している部分に、半透明の布のようなものが装着されている。
「……よく似合ってるんじゃないか」
「この装備の僕もかっこいいよね!」
手のひらを顔にあてて、キザなポーズをとるレグナ。
鎧とロングスカートというスタイルは変わらないが、鎧は軽そうに見える素材に変更されており、ロングスカートには
「……よく似合ってるんじゃないか」
「ちょっと! 同じことしか言ってないじゃない!?」
四度繰り返された褒め言葉に、ソルディが不機嫌そうに叫びだす。
「そんなこと言われたって……」
師匠たちには、女の装備はひたすら褒めろとしかいわれていない。具体的な褒め方について教わったような気がするが、どうでもいいと思ったので忘れてしまった。
「まあまア、旦那にそういうのは期待していないヨ」
「それもそうね」
あっけらかんとしたテラの言葉を聞いて、ソルディが納得したように頷く。
何か失礼な方向で話題が完結しそうだが、否定はしない。実際にそういう方面の気が効いているわけではないし、自信もない。
「それより、その装備どんな効果なんだ?」
話題を変えるためと興味半分で、俺は装備の効果を尋ねることにした。
「えっと……たしか、特殊な布が組み込まれていて、熱に強いらしいです」
「へェー、そうなのカ」
「何故、テラが感心しているのさ」
少し硬いラクアの説明にテラが感心し、レグナが呆れる。割とよく見る光景である。
「あんまリ、店の人の話、聞いてなかったんだよナー」
「ふふ。特殊な布……《水の羽衣》という名前らしいです。それを、【裁縫の財】を持つ職人さまが、衣服として加工してくださったらしいですよ」
テラの様子に気が緩んだのだろうか、すらすらと説明が再開された。
「なるほど」
子供用の戦闘服なんてもの、普通の防具屋には売っていない。ましてや、貴重な素材を使ったものなど。こいつらの親が余程の親バカなのだろうか、それとも……。
「そういえば、財ってなんなんダ?」
思考を巡らせていると、テラの声が割り込んでくる。
「……テラ。学校で何回も習ったじゃない?」
本日二度目の呆れ声。声の主はソルディ。
「寝てタ」
「ははっ、たしかにそうだったね」
悪びれもせず言うテラに、レグナがさっぱりとした笑顔を見せる。
「【天賦の財】……魔法と違い、魔力を消費せずに行える不可思議な力。お前ら、【予言の財】を持つ神官だかに言われて、俺たちのところに来たんじゃなかったのか?」
教科書通りの回答を口にしたところで、出会った日のことを思い出す。
「……まあ、そうね」
歯切れの悪い返事をするソルディ。どことなくばつの悪そうな顔をしている。
「とりあえず、今日はもう疲れたな! だけど、いつもより少し早く帰って来れているよね。歩いてすぐの二番街に、大浴場があるらしいから行ってみたいな、僕!」
早口で話すレグナ。唐突な提案も話題を反らすためであろう。
別に、深い事情なんて詮索するつもりはないのだが、慌ててごまかされてしまうと気になってしまう。
「……そうだな。気分転換になるなら行ってきな」
それでも、俺は追求しない方を選んだ。
パーティを組んだとはいえ、全てをさらけ出す必要性はないだろう。俺にも隠し事はたくさんある。後ろめたいことのひとつやふたつ、気にはしない。
「トラスさんは行かないのですか?」
ぼーっとしていると、上目遣いでこちらを窺うラクアの姿が視界に飛び込んできた。将来が末恐ろしい小悪魔力を発揮している。
「あ、ああ。まだやらなきゃならんことがたくさんある。夜の部の偵察もしたいしな」
冷静さを取り戻し、今日の予定を伝える。
「見張りの交代時間は分かっているの?」
「ああ、問題ない。確認済みだ。すまんが、明日は、正午まで寝かせてくれ」
「おっケー」
ソルディの質問への回答に、にへらと笑うテラ。睡眠時間を増やす口実ができたのが嬉しいのだろう。
「じゃあ、また明日な」
「うん! また明日!」
「はい。明日もよろしくお願いしますね」
「おやすミー」
「明日は僕も頑張るよ」
四者四様の挨拶をもらって、俺は姉妹たちの部屋から出ていったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます