第19話 母なる迷宮【第四迷宮】
本日の舞台は、モマクトタウンの『母なる迷宮』——【十大迷宮】のひとつ、【第四迷宮】である。
このダンジョンは火山型。溶岩の目立つ洞窟を、上へ上へと進んでいく形のダンジョンだ。
最上部の大広間には、迷宮主——“
そんなダンジョンの2階層。
ごつごつとした岩が目立つ小部屋。熱気に包まれたその部屋に、小鳥のさえずりのような美しい声が響きわたっていた。
「【水よ、飛べ】」
詠唱の主は水色髪の少女、ラクア。子供の顔程度の大きさ、そんな水の塊が射出される。
「ぶしゅぅっ!?」
水玉をぶつけられた
「上出来だ」
「ありがとうございますっ!」
火山型のダンジョンに多く出現する、炎の形を模した
低級モンスターではあるが、【火の魔法】と火の耐性を併せ持つ。そのため、このパーティでは、ラクアが魔法で倒してしまうのが、一番手っ取り早い。
「それにしても熱いわね……ここ」
モマクト初日には大いにはしゃいでいたソルディ。そんなソルディも、暑さでテンションが下がっている。ハンマーを持っていない方の手で、パタパタと顔を仰いでいた。
「は……はっ。僕は平気さ」
「嘘つケー……」
熱さに弱い組のレグナとテラは言わずもがな。特にレグナがグロッキーな状態に見えた。
「……火山地帯用の鎧とか、ないのか?」
「トラスの変態!」
「何でだよ!?」
レグナを気遣ったつもりの発言にとんでもない言いがかりをつけられる。
「レグナの軽装が見たいのね!」
「被害妄想だ……」
そんなやりとりの際中も、話の中心であるはずのレグナは、ふらふらと体を揺らしている。いつもの軽口をたたく元気もないようである。
「……レグナ、大丈夫か? きついなら、今日はもう帰還しても……」
「大丈夫だよ! ……鎧なんて脱げばいい。足手まといにはなりたくないんだ」
考え込む。だが。
「……もうなってる」
「……っ!?」
少しだけ間をおいたが、はっきりと言う。
「ちょっと! なんてこと言うのよ!?」
咎めるような声色でソルディが叫ぶ。
「お前らは、思ったより馬鹿じゃない。だから、正直に言うぞ。誰にでも苦手な場所は存在する。植物の属性を持つレグナが火に弱いのは当然だ。フォコの炎だって、ここにいるモンスターには効きにくい」
「……」
レグナは黙っている。他の姉妹たちも。
「適材適所だ。火属性のダンジョンだけじゃない。これから先は、他の属性の『母なる迷宮』にも挑むことになる。植物属性の母なる迷宮も存在する。そのときは……その……頼りにしてる……」
「照れたナ」
「照れましたね」
「かっこつけるんなら、最後までかっこつけきりなさいよ!」
テラ、ラクア、ソルディが一斉に言葉をぶつける。こういう場面での連携が完璧なのは、長年の付き合いによって成せる技なのか。
「ぅるせえなっ! 慣れてないんだよ、こういうの」
「ははっ……そうだね。正直、熱いのは苦手なんだ……」
瀕死の表情で黙っていたレグナが口を開く。その言葉には普段のキザさは感じられない。
「何も留守番しろっていってる訳じゃないんだ。きちんと対策をしてからまた挑戦しよう。焦ってもいいことなんてほとんどない」
「わかったよ……今日は——」
「——ああ、お前らはナサンタファミリーの店で熱帯装備があるか見てきてくれ」
俺は、レグナの言葉を遮って発言する。
「旦那ハー?」
予想通りの反応。テラが一番に質問してくるとは思わなかったが。
「俺はもう少し上まで見てくる。門番の配置と数くらいは確認しておきたい」
「……無茶しないでくださいね」
「ああ、もちろん」
本気で心配してくれてるのだろう。ラクアの表情は固い。
「……じゃあ、後でね」
「またナー」
「……武運を」
「ああ、後でな」
姉妹たちと別れ、帰路を見送ったあと、俺は岩陰に隠れて、詠唱する。
「【透き通れ】」
周辺に誰もいないことを確認してから、透明になる。
(……最上階は、12階層だったよな)
頭の中に、この迷宮の地図はインプット済みである。俺は、ギルドによって建設された不燃性の階段へ向かって走り出した。
******
問題は、レアモンスターの2体。
この2体は、仮にラクアの魔法で対処する場合、一撃という訳にはいかないだろう。水塊を複数回当てるのは、基本的に避けたいところである。水蒸気によるこちらへの被害が予測不可能だからだ。
(あとで弱点を調べた方がいいな……)
モンスターの種類を確認しつつ、階層を進む。ダンジョンを駆け上がっていると、最上階の最深部付近へとたどり着いた。
赤と金色の装飾が施されている扉の前には、門番たち。ギルドのマークがついた鎧を装備している。
(……兜まで着けてやがる。やっぱり、熱を避ける装備があるのか?)
門番の数は、4人。全員屈強そうな体つきをしているように見えるが、鎧と兜で詳細は分からない。
ご丁寧に用意された不燃木製の椅子に、全員だるそうに座っている。
挑戦者など皆無だからだろうか。門番たちからは、気迫も緊張感も感じない。
(……サガナキの『母なる迷宮』崩壊の報せは、届いていないのか……? あるいは、情報を規制している?)
もやもやと思考を続けていたが、不確定なことを考えても仕方ない。門番たちの観察を続ける。
四人のうち、二人が長い槍をもち、二人が杖をもっている。魔法の属性が気になるが、十中八九、水の系統だろう。
観察を終えて、その場を去る。魔力が続く限りは透明化は解除されないが、何事にも限界がある。これ以上は、帰りの分の魔力が切れてしまう。
「フォコ……帰りは頼む」
「お〜け〜」
岩陰に隠れてから、腹ポケットのフォコを小声で起こす。透明化は継続中。
「ほいさ〜」
立派な馬と見違えるほどの体格に変化したフォコの背に乗り、この場を後にする。
門番たちの情報をしっかりと記憶してから、フォコと俺は『母なる迷宮』の入り口へと走っていったのだった。
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