第16話 ふたりで【ソルディ&テラ】
ソルディとテラがやってきたのは、モマクトタウンに存在する——とある野良ダンジョン。
洞窟の中に森が広がる大部屋型ダンジョン。出現するモンスターは、数種類のみ。
ソルディとテラと対峙しているモンスターは、
「らぁ!」
「ばきゃっ!?」
ソルディが大振りしたハンマー、その強撃が命中し、ウォーキングウッドの腹部が粉々に砕け散る。
「とどめ!」
「ぎ……っ!」
体勢が崩れ、まっすぐ立てなくなったウォーキングウッド。モンスターをソルディのハンマーが追撃する。
上半身も砕かれたウォーキングウッドは、短くうめき声のような音を出して、灰へと変わった。
「中級モンスターとやらでも、フツーに打撃が効くんだナー」
ゴーレムで周りを伺いながら、テラがソルディに話しかける。
「そうね。やっぱりあの蟻が特別硬いだけよ! 十分やれてるわ、あたし!」
ソルディは誇らしげに、薄い胸を張る。
「うーン……多分、それだけじゃないと思うゾ」
テラは考え込んだようにソルディを見つめながらそう言った。
「どういうこと?」
ソルディが、テラの発言の意味を尋ねる。
「元々、ソルディは力が強かったけど、明らかにハンマーの威力は上がってると思ウ」
「……まあ、前よりは……」
ソルディにも自覚はあった。ハンマーを振るときの感触が違うのだ。
「修行の成果が出たナー」
「……そうね」
ひたすらジャイアントアントを叩き続けた甲斐があったようだ。
腕力だけではない。どう叩けば、力がより入るか、魔力をどう込めれば威力が増すか、そういったことが少しずつ理解できた気がしている。
「旦那の言う通りだナー。成長期だから伸びやすいってのは」
「ふん!」
トラスのことを認めている自分が少しだけ悔しいのだろう。ソルディは会話を切り上げるためにダンジョンの奥へと走り出す。
「おーい、ソルディー? やれやレ」
そんな行動の意味を理解できるテラは、腹違いの姉がめんどうくさくはあるが、いじらしいとも思っていたのだった。
「これはどう!?」
ソルディが目の前のウォーキングウッドを粉砕して、尋ねる。
「いいと思うゾー」
「ふん! これは!?」
「いいと思うゾー」
「はぁっ! これは!?」
「いいと思うゾー」
粉砕さえできれば木偶の坊に過ぎないウォーキングウッド。それを砕いては、感想を聞き、砕いては聞く。幾度かそれを繰り返した。
「もう! テラってばそれしか言わないじゃかい! 真面目に言ってるの?」
「言ってル、言ってル。約束だしナー」
「それならいいけど!」
はじめての迷宮主との戦闘。その忘れがたい敗北のあと、姉妹たちはいくつか約束を交わした。
そのひとつが、遠慮をしないこと。対象は主にテラだ。言いたいことはちゃんと言う、姉妹のためだからといって、無言でサポートに徹することはしない。
テラ本人は全く気にしていなかったが、損な役回りをさせていたことがこれまでもあったかもしれない。駄目なことがあれば、包み隠さず指摘してほしいというのが、残りの三人の総意であった。
「あー、でモ」
「なに?」
意味ありげなテラの言葉に、ソルディが食いつく。
「魔力を込めるときに腕だけじゃなくて、全身に込めてもいんじゃないか? 全力で走るとき旦那はそうしてるゾ」
「試してみる!」
ブオン。
ソルディの周りを魔力が踊る。金色の光。ソルディだけの特別な色。
「っらぁーーーーっ!」
「ーーーーっ!?」
全身を魔力で覆い、全力で放ったその一撃は、ウォーキングウッドを破壊するだけではとどまらず、ダンジョンの床に大きな縦穴を開けた。
「わはハ、すごいナー」
いくつもの木々が粉砕され、砂煙が舞う現場に、テラが関心していると、ソルディの様子がおかしい。
「あばばばば……」
「ソルディ?」
目の前で、ソルディが泡を吹いて倒れていた。典型的な魔力過多の症状。
「ありゃー。こりゃ駄目ダ」
そう冷静に言い切ったテラは、大型の二足歩行ゴーレムにソルディを優しく抱えあげさせる。体勢はお姫様抱っこ。
周囲を警戒しながら、テラは、ダンジョンの入り口へ向かって後退をしはじめたのだった。
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