第13話 ナサンタファミリー
モマクトタウンのメインストリート。火山の観光を終えた俺たちは、人が多いその道を、流れに従って歩いていた。
「観光客っぽい人は、あまりいないわね」
「まあ、物珍しいのは活火山だろうからな」
観光客のお目当ては、活火山の様子を見物することだろう。先ほどまでと違い、きょろきょろとあたりを見回す人物はいない。
「でも、その代わり、ベレー帽を被ってる若者が多いわね」
「ああ、魔法学校の生徒だろうな」
ベレー帽にワンポイントだけデザインされているのは、ひのきの杖のマーク。モマクト魔法学校の校章がそんなデザインだと聞いたことがある。
たわいない話を続けながら歩いていると、宿屋にたどり着いた。
古びた石造りの建物で二階建て。赤煉瓦の煙突から煙が立ち上がっている。
木製のドアと窓枠からは、年月の経過を感じる。宿屋の前の花壇には、今の季節に応じた花々が咲いている。
「ここであってるよな」
扉にはガラス窓が付いていて、宿泊客たちの様子が確認できる。建物の看板に記されているのは、トマトのマークとチーズという文字。
「前も思ったけど、なんでトマトのマークなのに宿の名前はチーズなの?」
「そういえば知らないな……あとで女将に聞いてみるか?」
「そうね」
ドアノブに手をかけて、俺たちは宿屋に入っていった。
宿屋の二階、俺たちが借りたのは隣接する二部屋。モマクトタウンにおける活動拠点となる場所だ。
「おかえリー」
「おかえりなさい……は正しいのだろうか?」
「ふふっ、とりあえずお疲れ様です」
元気を取り戻したのだろう。少女たちは、明るい表情で話しかけてくれる。
「ただいま!」
元気よく帰宅(?)の挨拶をするソルディ。
「何かあったか?」
「……むぅ」
無愛想な俺が、気にくわない様子のラクア。
「……ただいま、それで」
水色の少女の圧に負けて、俺も帰宅の挨拶をする。
「特に何もなかったヨー」
「ああ、しっかりと休養をとれたね」
ぐったりしていた二人からの返事に一安心する。
「そうか、今日はゆっくりしてもいいが……装備だけは整えておきたいな。結構ぼろぼろだったろ?」
軽い山登りを終えたソルディを含めて、少女たちからは余力を感じる。そのため、俺は装備の新調の提案をした。
「そうね! 胸当て、新しいのもらわなくっちゃ!」
「僕も鎧を新調したいかな。これからも前に出るなら、もう少ししっかりした鎧が欲しいね」
機嫌よく語る前衛組の二人。胸当ても鎧も大小さまざまな傷が目立っている。
「ウチはこのままでも……」
「駄目ですよ。テラちゃん。予備の服が無くなっているでしょう?」
「うン……じゃあ行くカー」
できるだけ体力を温存する方針のテラをラクアがたしなめる。その様子はまるで、母娘のようである。
「トラスも行くでしょ?」
「ああ……装備はいらないが、どんな商品が売られているかは、確認しておきたい」
ソルディの確認に返事をする。俺の武器や防具を新調する必要はないが、地方限定の特産品などは、矢の材料になるかもしれないのだ。
「それじゃあ、行きましょう!」
「ソルディちゃん、その前にシャワーを浴びに行きましょう。温泉の匂いがします。トラスさんも」
凍りついた仮面のようなラクアの笑顔が怖い。迫力満点である。
「「はい……」」
なぜか恭しく返事をしてしまった俺とソルディであった。
******
今この場には、普段は決して体験できないであろう贅沢な雰囲気が漂っている。
(この場に俺は、明らかに場違いだろっ!)
だらだらと汗がこぼれるような錯覚を覚える。それほど居心地が悪いのだ。
高い天井の店内には、シャンデリアが優雅に吊り下げられ、暖色系の照明が上品な光を放っており、床は光沢のある大理石で覆われ、柔らかい絨毯が足元を飾る。
商品はガラスケースや木製の棚に美しく陳列され、高品質の素材と洗練されたデザインが際立っている。
快適で見るからに高級そうな椅子やソファが配置され、どこか優雅に見える客はくつろぎながら製品を鑑賞している。
シャワーを浴びおえてから、俺たちがやって来たのは、ナサンタファミリーの装備品店。亜人装備が充実している高級店である。
とてもじゃないが、ここで消耗品を買おうとは思えないほどの。
だが、緊張しきっている俺をよそに、この場所で、少女たちは慣れた様子で試着を繰り返し、好き勝手に商品を物色している。
「……お前ら、金はちゃんと持っているのか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「?」
とぼけた様子というわけでもなさそうだ。困惑する俺をよそに、少女たちはいたって冷静である。
「あたしたちのファミリーネーム、ナサンタよ」
「……ぇ……」
か細い声が、俺の口から漏れだした。
そういえば、どこかで聞いたことがある。
【ナサンタファミリー】の創業者は、【長寿の財】を持って生まれ、悠久に近い時を生きているらしい。そして、とんでもない数の妻がいるという噂を。
その中には当然、亜人の女性たちも含まれる。
亜人大戦の終結に貢献した大英雄は、かなり色を好む性分だったようだ。
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