第11話 はじめてのパーティ

 本日の舞台は、サガナキタウンの野良ダンジョン。


 洞窟型ではあるが、窓のような隙間から日光が差し込んでおり、中には大きな草原が元気良く広がっている。


 大部屋型とも呼ばれるダンジョンであり、湖や林、森などが確認されることもある。


 噂では、ダンジョンを快適な状態に保ち、住処として活用している冒険者もいるらしい。あくまで、噂に過ぎないが。


 そんな一見すると平和そうな場所で、金髪のハーフドワーフと緑髪のハーフエルフが獲物を振っていた。  


「やあっ!」


 ソルディがかけ声と共にハンマーを振り下ろす。どんっ、という音が響きがいこつ兵士スケルトンソルジャーがバラバラに砕け散る。


「はっ!」


 レグナが長剣を横に一閃する。小狼コボルトは切り裂かれ、さらさらと灰に変わっていく。


「すごいナー」

「すごいですね」

「……そうだな」


 後ろで見学しているテラとラクア、そして俺。腹ポケットには、フォコが眠っている。


 一応の用心として周辺を警戒はしているが、モンスターが出現するたびに前衛の二人が刈り取っていく。


 正直やることがない。


「もういくつか野良ダンジョンに挑戦しようと思っていたが……必要なさそうだな」


 成長著しい前衛組を眺めながら、俺はそうつぶやいていた。


「そうなんですか?」


 ラクアが俺の言葉を拾い上げる。


「低級モンスターなら、もう相手になってないように見えるからな……それに、がいこつ隊長も倒したんだろ?」

「アー、倒してたナー。ウチらなんもやってないけド」


 思い出すように、感慨なさそうに口を開くテラ。


「後衛の出番なんて無いほうがいい……とはいえ、平和ボケするのは避けたいからな。予定より早いが、明日モマクトタウンに向かおう」


 もうこれ以上、初心者用ダンジョンで得られるものは、ほとんどないだろう。そう判断した俺は、活動拠点の移動を決意した。


「火の国ですよね。大きな魔法の学校があるらしいと聞いたことがあります」

「……ああ。行ったことはないが」


 ラクアが口にしたのは、モマクトタウンの俗称である。火山地帯なため、そう呼ばれているらしい。


「モマクトの母なる迷宮は中級モンスターも出現するらしい。魔法はともかく、接近戦はまだ通用しないだろ」

「旦那も厳しいのカ?」


 テラの疑問に一瞬、口ごもる。中級モンスターは、低級モンスターのそれとは比べ物にならないほどの強さを誇っている。


 フォコの聖火なら、問題なく対応可能だが……。


「……そもそも俺は弓使いだ。格闘はやらない」


 若干の負け惜しみを含めて、俺はそう返答した。


「弓……透明な矢というのは、すごく有効そうですよね」


 フォローのつもりなのだろうか、ラクアが優しい声で褒めてくれる。しかし、魔法の内容を口に出すのはいただけない。


「……ラクア、今は周りに人がいないからいいが、無闇に魔法の効果を口に出さないでくれ」

「あっ……すみません……」


 軽い注意のつもりだったが、予想外にしゅんとしてしまったラクアにうろたえる。


「いや……そこまで落ち込まなくても」


 どうしても調子が狂う。魔族の血を引いているとしても、彼女とは違うのに。


「旦那、なんかラクアにだけ甘くないカ?」

「……そんなことない」


 テラの指摘をきっぱりと否定する。俺はパーティメンバーを平等に扱っているつもりである。


「ほんとニ?」

「本当だ」


 再確認にも、即答する。


「まア、いいけド」


 わかってますかラ、みたいな表情をされるとそれはそれでむかつく。


「ちょっとっー! このまま進んでいいの!?」


 モンスターの群れを片付けたソルディが、遠くから声をかけてくる。


「ああ! 宝箱の部屋まで進んでいい!」

「分かったわ!」


 機嫌よさげに返事をするソルディ。重そうなハンマーを振る姿は、まるで風船を持ってはしゃぐ子供のようだ。


(ドワーフってのは、子供でも怪力なんだな)


 そんな風に関心しながら、俺はテラに声をかける。


「ほら、仕事だぞ。テラ」

「ハイ、ハイ」


 テラは、気だるげに返事をするが、そそくさと動き出す。俺たちもそれに続いて早足になる。


「以前は、宝箱はどうしていたんですか?」

「レアもの以外は、中身ごと燃やしていたな」


 ラクアの質問に簡潔に答える。ちなみに、レアな宝箱は、中身は傷つけないように、フォコに壊してもらっていた。


「野蛮だナー」

「ダンジョンの機能を壊せさえすれば、別に何でもいいんだよ」

「それもそうカー」


 気分屋なのか、執着心がないのか、テラはあまり感情を表に出さない。


 そんなこんなで歩いていると、宝箱の前にたどりついたため、テラは小走りで向かっていく。


 今回の宝箱も緑。貴重な戦利品は期待できない。


「こいつをこうしテ、これをあーしテ……オっ! 開いたゾ」


 複雑そうな作業をやっているようなことを言っているが、はたから見れば、テラはただ鍵穴に手をかざしているだけである。魔力を動かすコツなどがあるのだろうか。


「どれ、今回は何が入っているのかな」

「可愛いのがいいわね」


 前衛組のレグナとソルディが、宝箱をのぞきこむ。


「これハ……?」


 テラが箱の中身を見て、不思議そうにつぶやく。


「魔鉱石だな。緑と紫の中間色……ヴィオラグリーンか」


 魔鉱石。ダンジョンに時々存在する鉱床から採取できる鉱石である。


「ヴィオラグリーン?」


 不思議そうに色の名前を呼ぶソルディ。


「ああ。たしか、魔力回復ポーションの素材の一つだな」


「へぇ……」


 レグナが石を手に取り、顔の近くで眺める。怪しげな光が、レグナの顔や髪をライトアップして、不思議な雰囲気を醸し出している。


「綺麗ですね……」

「そうだね」

「この前の葉っぱよりは、大分いいわね!」

「あはハ、確かにナー」


 酒ぶどうの葉も手のひらサイズのヴィオラグリーンも大して価値は変わらないのだが、それを言うのは無粋の極みというものだろう。


 嬉しそうに談笑する少女たちを眺めながら、俺はおだやかな気持ちでいたのだった。









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る