第8話 訓練タイム
サカナギタウンの迷宮主を討伐することに成功した。それ自体は喜ばしいことなのだが、俺は年端もいかぬ少女たちとパーティを組むことになってしまった。しかも4人も。
そして、現在は宿屋の会話から2日後。天気は晴れ、午前。
すっかり傷を癒やし、体力も気力も回復できた俺とフォコと四姉妹。そんなおかしな6人パーティーは、街から離れた平原を目指して歩いていた。もちろん周りに人がいないところを選んである。
「ギルドにばれたくないのなら、早く次の町に向かわなくていいの?」
平原までの道中、ソルディから聞かれた質問。少女たちの足取りは軽い。
「もう少しだけ、この街で野良ダンジョンに挑戦したい。すぐに移動したら、『母なる迷宮』が目的だって勘付かれる可能性があるからな。お前らの基礎能力をできるだけ向上させておきたいのもあるが……」
「なるほど」
歩きながら、サガナキタウンにとどまる目的を話す俺。上機嫌そうに見えるレグナが納得したように頷いてくれた。
「まあ、とにかく今日は……。いや、少なくとも、あと3日は訓練にあてて、4日後に手頃な野良ダンジョンに挑もう」
「おっケー」
小型のゴーレムに運ばれながら、気の抜けた返事をするテラ。楽をするための努力を惜しまないやつである。自動歩行のゴーレムなんて見たことがない。
「訓練って何をすればいいの?」
若干引いていた俺に、再びソルディが質問をぶつけてきた。
「とりあえず、ソルディとレグナは前衛職の訓練をしたい」
「「前衛?」」
不思議そうにこちらを見つめるソルディとレグナの持つ長直剣。
「ソルディは、ハンマー。レグナは長剣。せっかく業物を持っているんだ。使ってみてくれ。自分には合わない、と感じたら他のものを試してもいい」
「了解した」
「分かったわ」
ソルディが背中に携えているのは、金属製のハンマー。金属に詳しくないので、材質は分からないが、光沢や装飾から一級品であることが伺える。多分。
レグナが腰に差しているのは、長直剣。いわゆるロングソード。両刃の剣は一般的な装備であり、冒険者人気が高い。華奢なエルフの少女が振り回すものではないような気もするが。
言い終わったあと、俺はラクアの方を向き、要望を伝える。
「ラクアは治癒魔法の訓練を頼みたい。人数が増えると、ポーション代がばかにならんからな。中級の治癒魔法の習得と範囲回復の魔法、どちらかがあるだけで生存率が跳ね上がる」
「はい! 頑張ります!」
真面目な声。表情は真剣そのものである。頑張ります、と顔にも書いてある。
実際に複数人のパーティには、ヒーラーが必須であると言われている。ほぼソロで活動していた俺には無縁の話であったが。
「旦那ー。ウチはー?」
寝転がりながら、こちらに声をかけてきたのはテラ。ちなみに、こちらに視線は向けていない。
「……テラは魔力増強訓練か、体力をつけるための走り込みだけで十分なんだが……つまらないなら、【鍵開けの技法】でも覚えるか?」
「走るのは嫌だナー」
「じゃあこれいじっといてくれ」
「おっケー」
テラに渡したのは、不思議な知恵の輪。魔女商店で買ったセール品だ。
挑戦するだけで魔力が上がり、場合によっては【鍵開けの技法】というスキルが手に入る。簡単な仕組みの施錠なら、魔力を込めるだけで解錠できるようになるらしい。
いろいろと話しながら歩いていると、目的地にたどり着いた。
目の前には、広がる平原。風に揺れる草の波が広がり、緑の絨毯が大地を覆っている。柔らかい芝生が多いこの場所なら、転倒による怪我なども防止できるだろう。
大きな木の根元。微風と太陽の光が届かない木陰に荷物を起き、俺はソルディたちに声をかける。
「じゃあ夕方になったら戻ってくる。昼飯やらはここに置いておくからな」
「トラスはどこいくの?」
ハンマーを両手で構えながら、ソルディが尋ねる。
「討伐依頼をいくつか受けてくる。ポーションを補充したいからな」
「申し訳ありません……。私たちのせいですよね」
「この前も言っただろ。別に、お前らじゃなくても死にかけのやつがいたら使う。ポーションは消耗品だ。気にしなくていい。それに、俺も体を動かしておかないと、動きが鈍る」
「はい……」
物悲しそうなラクア。いまいち納得できていないのだろう。
この前から時折ではあるが、この暗い表情を見せるのだ。これ以上、ポーションの話はしないように気を付けよう。
「じゃあまた後でな。ソルディ、何かあったら揺らしてくれ」
「任せといて!」
俺が胸ポケットから取り出したのは金属片。ソルディにつくってもらった姉妹とお揃いのものだ。念のため、フォコの首にもつけてある。キラリと光るそれは、銀色に輝いていた。
事前に伝えていた訓練内容をはじめた少女たちを横目に、俺とフォコはギルドに向かったのだった。
+*+*+*+*+*+*
「トラス様、2日前はどこで何をなさっていましたか?」
ギルドの受付嬢が、無表情を崩さずに、いたって真面目に聞いてくる。
「武器屋で矢の加工をしていましたよ。ほら、これ良い出来でしょう?」
そう言って、俺が背中の筒から取り出したのは、黄色の魔石が取り付けられた一本の矢。
「……そうですね」
ギルドの受付嬢は硬い表情をしたままである。
武器屋のモヒカンとは話を合わせている。防具屋のチンピラと宿屋のおばちゃんも協力してくれている。アリバイづくりはバッチリだ。
サガナキタウンで三ヶ月滞在したかいがあった。
「それよりゴブリンとトゲ猪の討伐依頼、受け付けお願いします」
「……わかりました」
掲示板から剥がしてきた手頃な討伐依頼書をギルド職員の前におく。こういうときは堂々としていた方がいい。普段と同じ行動をするよう心がける。
「お気をつけて」
事務的なやりとり。激励の感情は一切感じない。
「ありがとうございます」
依頼書に受領印をもらった俺は、野良ダンジョンに向かっていったのだった。
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