第4話 方向性の違い


「な、何でよ! あたしたち問題なく戦えていたでしょ! それに……テラはさぼっていただけじゃない!」


「……」


 予想していた通り、いの一番に噛み付いてきたのは、ソルディだった。

 

 他の二人も納得のいっていないようである。だから、俺は順番に不要だと——そう思った理由を説明していく。


「……【金属の魔法】は確かに優秀だ。攻撃力も申し分ない。だけど、お前は鉄のやりを召喚して、飛ばすしかしていなかった。なぜだ?」


「そんなの、それが一番てっとり早いからに決まってるでしょ!」

「他には何ができるんだ?」

「金属を……飛ばすのよ」

「他には?」

「だからそれ以外できないわよ! 金属を動かすのが私の魔法なの!」


「そうだろうな」


 ソルディはモンスターとの戦闘において、金属のやりを撃つことしかしていなかった。ひたすらに、モンスターに向けて。


「ただモンスターを倒すだけなら、フォコがいれば十分だ。派手な威力も必要ない。聖なる炎は魔物特攻だからな」


「うっ……」


 聖女と名乗っている割には、四姉妹の魔法からは聖なる力を感じなかった。ただ威力を重視しただけの魔物だけではなく、生物を殺すことに特化した魔法。そんなもの、俺とフォコには必要ない。


「ラクアとレグナについても、ほとんど同じ理由だ。パーティーを組むっていうなら、役割分担が必要だ……。少なくとも、俺はそう考えている。後衛の火力役は何人もいらない」


「……そう、ですね」

「確かにそうだね」


 ラクアは落ち込み、レグナは冷静になっているように見える。


「……なら! 何でテラは必要なの!? 私たちが頑張ってるとき、楽して寝てたじゃない!」


「……本当に気づいてなかったのか? お前らは?」


「「……?」」


 ラクアとレグナの方を見るが、何も分かっていない様子だった。しょうがないと言えば、しょうがないのだろう。今日が初めてのダンジョンなら視野が狭くなるのも仕方がない。


「こいつは——テラは、お前たちが何も考えずに魔法をぶっ放している間、土のゴーレムで周りを警戒していた。不意打ちに備えてな。おかしいと思わなかったのか? ずっと前からしかモンスターが現れないなんて」


「あっ……」


 ソルディの開いた口が塞がっていない。


「【土の魔法】——人を運べるような高性能なゴーレムの生成だけじゃない、土を操って壁を作ったり、擬似的な安全地帯を作ったり、そういうことは俺とフォコじゃ絶対にできないことだ」


「……っ」


「パーティを組んで迷宮主を倒す、という考えには賛成だ。だけど、聖犬にこだわる必要ないだろ。お前ら一人一人だったら、どこのパーティーでも歓迎してくれ——」


「それじゃだめなのよ!」


 少しのけぞってしまった。ソルディから今日一番の大声を聞かされたからだ。それも、叫ぶような、どこか悲痛さを感じさせるような。


「……何でそこまで……?」


「もういいわ! 行きましょう、皆!」


「ソルディちゃん……」

「ソルディ……」


 ラクアとレグナの声かけを無視して立ち上がるソルディ。


「勇者なら……もっと勇者らしく、そんなリスクなんて考えずに、勇敢でなんでも解決してくれるものじゃないの!?」


「めちゃくちゃ言うなよ……。そもそも俺は……勇者なんて柄じゃねえよ」


「……っ!」


「ソルディちゃん!」


 勢いよく飛び出していくソルディ。きらびやかな金髪のツインテールが激しく揺れる。


 ラクアとレグナはこちらに軽くお辞儀をしたあと、ソルディを追いかけていった。


「悪いネ。旦那。あの子はウチらの中で誰よりも勇者に憧れてたんだヨ」

「……そうか」


「それじゃ、またネ」

「……ああ」


 ひらひらと手を振って、ゆっくりと姉妹のあとを追いかけていくテラ。他の少女たちよりも精神年齢が高い、この少女からはそう感じることが多い気がする。


「俺は勇者とかいうやつなのか? フォコ?」

「うーん、分かんないや。ぼく、記憶ないからなぁ〜」

「……」


 成長してから、突然、フォコの言葉が分かるようになった。フォコには俺と出会う前の記憶もどうしてあの場所にいたかも覚えていないらしい。


「俺は勇者なんて……そんな資格ねえよ」

「……とりあえず、今日はもう休もうよ。今から最深部って気分でもないでしょ」

「そうだな……」


 少女たちを傷つけてしまった罪悪感。それと自分に対する自信の無さ。


 今の気分はなんとも言えない、雨の日のようなどんよりとしたものだった。






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