第3話 少々、期待はしていた
大木の中の安全地帯で、俺は聖女とやらの実力を確認するため。ダンジョンへ赴く提案をしていた。
「じゃあ、一人ずつ順番についてきてくれ。誰から行く?」
「はあっ!? 何で一人ずつなのよ!」
金髪ハーフドワーフの少女——ソルディが噛みついてくる。先ほどまで乗り気なように見えていたのにもかかわらず。
「……四人いっぺんだと、イレギュラーが起きた時に守りきれない。お前ら初心者なんだろう?」
「問題ないわよ! 私たちの魔法はすごいんだから! それに聖犬の勇者だからって完全に信用したわけじゃないんだからね! 二人きりになんてさせないわ!」
ソルディの警戒心は全くもって当然なものだ。だがしかし、目の前で堂々と言われると少しむかつく。
「はぁ……。分かった。だが、これだけは約束してくれ」
「何でしょうか?」
水色髪の魔族少女——ラクアは少し不安そうである。俺の語気が強かったからだろうか。
「魔法を使うのは一人ずつ。他の三人は後方で待機。いつでも逃げられる場所にいてくれ」
「ああ。了解した」
緑髪のハーフエルフ——レグナは頷いている。内心はどうだか分からないが、表面上は納得してくれたようである。
「グー……」
茶髪の狐獣人——テラ、こいつからは全くやる気を感じられない。
正直不安でいっぱいだが、母なる迷宮とはいえ、ダンジョンの上層部であれば万が一はないだろう。この場所——サガナキタウンの母なる迷宮は、難易度もそこまで高くない。一応、全員を抱えて逃げる覚悟を決めてから、俺は四姉妹とダンジョンへ向かったのだった。
******
母なる迷宮——それぞれの地域で最大規模のダンジョン。そのダンジョンは、モンスターだけではなくダンジョンをも産みだす。そんな場所の第一階層。出現するのは、低級モンスターの中でもかなり弱いとされている、
いわゆる雑魚モンスターだが、初心者が舐めてかかると怪我をする。命を狙ってくる怪物というのは、身体を恐怖で強張らせるからだ。
「【金属よ、穿て】」
ゴブリンたちの上半身が、鉄の槍に貫かれ跡形もなく消滅する。
「【水よ、包め】」
コボルトの軍勢が大きな水球に閉じ込められ、もがき苦しんでいる。
「【葉よ、斬り裂け】」
ジャイアントワームたちが鋭利な葉によって、バラバラに引き裂かれる。
「【土人形、運んデ】」
大きなゴーレムが現れ、茶色の少女を運んでいる。
「ちょっと、テラ! 真面目にやりなさいよ!」
「ムニャ、ムニャ……」
騒がしいことこの上なかったが、四姉妹たちはダンジョン初挑戦ながら、上層のモンスターを全種類討伐するという偉業を成功してみせたのだった。
******
ダンジョンでの力試しを終えて、俺たちは安全地帯に戻ってきていた。四姉妹の戦闘スタイルや現在の実力を把握することはできた。できたのだが、俺は今、何と説明しようか迷っている。
「ふふーん! 何の文句ないでしょ! すごかったものね! 私たちの魔法!」
そうなのだ。ソルディが言うように、こいつらの魔法は凄まじかった。おそらく、サガナキタウンに存在するどのダンジョンでも問題なく攻略できるだろう。雑魚モンスターならば、一撃で屠ることが可能だろう。
「……お前らの、聖女とやらの役目を、もう一度教えてくれるか?」
「……? もう忘れちゃったの? この国中、全ての母なる迷宮を壊すことよ!」
ソルディの表情は自信に満ち溢れていた。
「……分かった。もう少しだけ、一人一人質問させてくれ。……まずはソルディ」
「私ね!」
待ってました、と言わんばかりの表情をする金髪の少女。
「お前の胸当ては、何のために装備しているんだ?」
「これ? ドワーフの誇りよ。そんなことも知らないの?」
なぜだか心配そうな表情のソルディ。そんなことは知っている。そして、俺が欲しかった返答はそうじゃない。
「その装備は前衛用のものじゃないのか?」
「そんな野蛮なことしないわよ! せっかく便利な魔法があるんだから!」
「……分かった」
全国のドワーフたちに向かって、喧嘩を売るようなセリフを放ったソルディ。もう聞きたいことはない。
「……次、ラクア」
「は、はい!」
緊張した面持ちをして、高い声で返事をする水色髪の少女。ただでさえ小さい体が、さらに縮こまったように見えた。
「シスター服……だよなそれ、ということは回復職じゃないのか?」
「治癒魔法も使えますよ。あまり得意じゃないですけど……」
明らかにしょんぼりとしてしまったラクア。少しだけ胸が痛むが、次の少女に質問する。
「……レグナ。お前のその鎧は、剣士用のものじゃないのか?」
「ははっ。格好いいから着ているだけだよ」
顔に手を当てて、カッコつけている緑髪の少女。緑色のポニーテールが生き物のように揺れている。
「ふぅ……」
「あレ? 旦那、ウチには聞くことないのカ?」
もうすぐ解散であることを悟ったからだろうか、テラのテンションが少し高くなっているように見える。
「お前には特に言うことはない。どうせ、その盗賊みたいな軽装も大した意味はないんだろう?」
「動きやすいからだナー」
高くなったと言っても、言葉の抑揚は少ない。狐の少女からは、いまいち感情が読み取れないのだ。
「……ぐだぐだ言ってもしょうがない。結論から言おう」
「ふぁーア」
「俺の戦いにお前たちは必要ない。こいつを除いてな」
「「「え……っ?」」」
俺が例外として指を差したのは、あくびをしている茶髪の少女テラだった。
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