四 親友の想い

 そのしばらくの後、いつも静かなその別荘地は、警察とマスコミの車が押し寄せてえらい騒ぎになった。


 成美の殺害とわたしの殺人未遂現場だったからばかりではない。その地下室からは、連続猟奇殺人に使れたと思しき、拷問の痕跡が残る部屋が見つかったのだ。


 その別荘は不動産業をやっている有輝の父親が所有しているもので、しばらく買い手も見つからずに放置されていたのに目をつけた有輝が、己のサイコな欲望を満たすために利用していたようである……。


 彼はパパ活している若い女性とSNSで連絡をとり、この別荘へ連れ込んで犯行に及んでいたというわけだ。


 そのまさに連続殺人の現場を、図らずも成美は見つけてしまったのである。


 それで口封じも兼ねて成美は殺され、その記憶をたどったわたしも同様に命を奪われかけて……。


 そういえば、なんともタイミングよく駆けつけてくれたお巡りさん達であるが、後で話を聞くと不思議なことを言っていた。


 なんでも、若い女性の声で通報があったらしいのだ。この別荘の中で、女の子が殺されそうになっていると……いや、そればかりか現場へ到着した警官二人に、ここだと手を振って教える制服姿の女生徒がいたのだという。


その女生徒は、いつの間にやらどこかへ消えてしまっていたらしいが……。


 それは、成美だったんじゃないだろうか? 自分同様死に瀕したわたしを、成美の霊が助けてくれたのである。


「……成美!?」


 そんなことを思いながら、毛布を肩に救急車の中で佇んでいると、忙しなく往き交う警察関係者達に混じって、こちらを見つめる成美の姿があるのに気づく。


 それまでの彼女とは違い、今日は生前と同じように屈託のない笑顔を浮かべている。


「ありがとう、成美……」


 そんな親友に礼を述べると、眩い光を帯びた成美は、無念が晴れたかのように薄らいで消えていった──。





 その翌日、警察署での事情聴取を終えた帰りに、わたしはまた成美のお墓参りへと行った。


「成美、ありがとう……成美はわたしを恨んでたんじゃなく、わたしにずっと警告してくれてたんだね……」


 わたしは墓前で手を合わせ、今は雲の上にいるであろう彼女に語りかける。


 思い返してみれば、彼女が化けて出てきていたのは有輝に近づかないようにとのメッセージだったのだろう。


 なのに、わたしは勝手に思い違いをして、成美の親切を悪く捉えてしまった……だが、自分を殺した有輝も捕まり、これでもう思い残すことはない。成仏した彼女の霊が現れることは、もう二度とないのだろう。


 毎回怖い思いをさせられていたが、そう思うとなんだか淋しいような気もする……。


「メッセージをちゃんと受け止められなくてごめんね。その上、怖がっちゃったし……」


「そうだよ。せっかく不便な幽霊の身で注意してあげてたのに。幽霊って、思いの外に自由がきかないんだよ? 知ってた?」


 だが、不意にわたしの背後から、よく聞き慣れた声が聞こえる。


「あのクソサイコ野郎は罪悪感ないのか、ぜんぜんあたしに気づかないしさ、なんとかあんたに伝えようと記憶まで見せたんだけど、逆に危険な目に合わせちゃったね。その点は謝るよ。ま、でも、終わり良ければなんとやらってことで」


「な、成美!? 成仏したんじゃなかったの!?」


 そこには、なぜか成美が立っていた。それに今度は若干、身体が透けているようにも見える。


「いや、わたしもそう思ったんだけどさ。なんかまだこっちに居るんだよねえ……あ、でも、だいぶ自由に姿現せるようになったよ? 最初は一言も口利けなかったけど、今はこうして喋れるようにもなったし」


 驚いて目を見開くわたしだが、彼女は幽霊とは思えないくらいやけに陽気に…しかも、生前よりも饒舌になってペラペラとよく口を動かしている。


「てことで、いつ向こうへ行くのかよくわかんないけどさ。その時まで、これからもどうかよろしくね、我が心の友よ」


 完全に置いてけぼりなわたしを他所よそに、屈託のない笑みを浮かべて成美はわたしにそう語りかける。


 この親友の霊との奇妙な友情は、どうやらこれからもしばらく続きそうである……。


                  (これからも友達 了)

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これからも友達 平中なごん @HiranakaNagon

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