三 親友の夢(2)
今日は日曜だし学校も休みだ。わたしは夢で見た事実を確めるべく、その道のりをたどってみることにした。
一旦、高校の前まで行き、そこから夢で見た道順通りに住宅街へと入り、さらに山際の別荘地へと向かう……。
「あった!」
すると、やっぱり夢の通りにその「売家」と書かれた別荘がそこに建っていた。
山林に囲まれた別荘地だけあって、隣家までは離れているし、日曜といえど辺りに人の気配はない。
「ゴクン……」
少し緊張しながらチェーンを潜ったわたしは、夢と同じようにドアノブへと手をかけて回してみる……すると、鍵はかかっておらず、簡単に玄関のドアは開いた。
「ほんとに夢の通りだ……」
そして、おそるおそる中へ入ってみると、やはり内部も夢の通りである。
「そうだ! 証拠を探さなくっちゃ……」
昨夜の夢のことを思い出そうとしていると、ある疑念と感情がわたしの胸に去来したのだ……あれは夢なんかじゃなく、殺されたあの日、成美が最後に見た記憶だったんじゃないだろうか?
あの日の放課後、一緒に帰ろうとわたしが声をかけると成美は──。
「──あ、ごめん! ちょっと急用ができちゃったから!」
──窓から外を眺めていた成美は、そう言って慌ただしく教室を出て行ってしまった……それが、生前見た彼女の最期の姿である。
その急用というのが、あの男子生徒の後を追うことだったとしたら……そして、やはり夢で見た通り、この空家の別荘で彼に命を奪われたのだとしたら……。
それに、あの凄惨な成美の遺体の状況……加えて、成美本人のように感じるこの苦痛と恐怖と深い悲しみ……すべてがある事実を指し示しているのだ。
だとしたら、必ずこの建物内にあるはずだ……。
「リビングってことはさすがにないか……想像したくないけど、片付けとかからしたらやっぱりお風呂場とか?」
わたしは少し大胆になって、〝ある場所〟を探すべく廊下を建物の奥へと進もうとする……そう。あの夢の中の成美のように……。
だが、その瞬間、開けっ放しにしといた玄関のドアがガチャリ…とひとりでに閉まる。
「……!?」
「まったく。興味が湧かないよう仕向けてなげたのに困ったもんだね……また親友を殺さなきゃいけなくなっちゃったじゃないか」
振り返ると、そこにいたのは有輝だった……やはり、昨夜の夢で見たシチュエーションとそっくりだ。
「有輝……やっぱりあなたが成美を殺したのね……どうして、どうして成美を!?」
「だって、この秘密の遊び場を見られちゃったんだもん。口を封じるしかないじゃないか。ま、彼女も充分楽しませてくれたから、それはそれでよかったんだけどね。でも、関係者を獲物にすると警察に目をつけられかねないし、ほんとは僕も殺したくはなかったんだよ?」
その、俄かには信じ難い事実に半信半疑ながらもわたしが詰問すると、彼は悪びれる様子もなく、さも仕方なくやったとでもいうようにしてそう答える。
やっぱり、夢で見た通りだったんだ……いや、真実はもっと酷く、あの後、成美は他の犠牲者達と同じように酷い目に遭わされて……。
「成美は……あなたのことが好きで、だから気になって後をつけたんだよ!? なのに、なのにあんな酷いことを……」
疑惑が確信へと変わり、親友から殺人鬼へと変貌した目の前の人物に、わたしは涙目になりながら抗議の言葉をぶつける。
成美はきっと、好意を寄せる親友がこそこそ何かしていることに、カノジョでもいるんじゃないかと気になって後をつけたのだろう……まさか、その恋の相手が連続猟奇殺人犯だったなんて……。
「そいつは運が悪かったね。でも、考えてみれば、その好きだった男の欲望を満足させられたんだから、むしろ幸せってもんなんじゃないのかな?」
だが、やはり有輝は微塵も罪悪感を抱いてはおらず、さらに故人の尊厳を踏み躙るかのようなことを平然と口にしている。
「ひどい……ひどすぎるよ……有輝、あなた最低だよ!」
「
わたしは涙を流しながら、叫ぶようにして彼を非難するが、そんな暢気にお喋りをしている場合ではなかった……それよりもすぐさま、その場を逃げ出すべきだったのだろう……。
「…うっ……や、やめ…て……」
昨夜の夢のデジャヴュであるかのように、有輝はわたしに襲いかかると両手で首を締めにかかる。
「安心して。気絶させた後にちゃんと拷問部屋へ運んであげるから。よかったね。親友の成美と一緒の死に方だよ?」
有輝は嬉々とした狂気の笑みを浮かべ、慣れた手つきでわたしの首を思いっきり締め上げる。
「……くっ……かはっ……」
息がまったくできず、すうーっ…と意識が遠退いてゆく……もうダメだ。こんな別荘地の空家じゃ、悲鳴をあげたところで助けなんかまずこないだろう……わたしはこの後、成美や他の被害者達みたいになぶり殺されるんだ……せめて、向こうの世界でまた成美と会いたい……な……。
「おい! 何やってるんだ! その手を放せ!」
だが、有輝の手の中で意識を失おうとしたその刹那、突然、そんな大声が玄関の方から聞こえてくる。
「け、警察!? な、なんでここに……」
「無駄な抵抗はやめろ! 殺人未遂の現行犯で逮捕する!」
朦朧とした意識の中でそちらへ目を向けると、そこには腰の拳銃に手をかけた制服警官が二人、血相を変えて立っていた。
奇跡としか思えないが、偶然にも近くを巡回していたのか、あるいは誰かが通報して駆けつけたのだろうか?
「ら、乱暴なことしないで! おとなしくしますから! 僕、痛いの苦手なんです!」
予期せぬ警官の登場に、有輝はあっさりと首から手を離し、わたしはぐったり床の上へと身体を投げ出す……いずれにしろ、わたしは危機一髪、助かったみたいである──。
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