三 親友の夢(1)

 テーマパークから帰った夜、成美は再びわたしの前に現れた……夢枕に立ったのである。


「──んん……んんん……っ!」 


 その夜、異様な寝苦しさに目を覚ましたわたしは、ベッドの脇に立ってわたしを見下ろしている成美に気づいた。


 と同時にガチン…と全身が固まって指一本動かせなくなってしまう。いわゆる〝金縛り〟ってやつなのだろう。


「…………」


 そんなわたしを引き攣った形相で見つめ、成美は口をパクパクと何かを訴えかけているようだ。


 やはり、わたしだけ生きていて、有輝と仲良くしていることが許せないのだろうか? そんな一人だけズルいわたしも、向こうの世界へ連れて行こうとしているのだろうか?


 成美はわたしも道連れにしようとしている……それがわかると、親友といえどとても恐ろしい存在に思えてきて、その強烈な恐怖のあまり、わたしはそのまま意識を失った──。





 次に気がつくと、わたしはなぜか街中を歩いていた……。


 辺りは夜ではなく、西陽に染まる夕暮れ時になっている……目に映る街の景色はよく見知ったもので、どうやら学校近くの道を歩いているらしい……。


「……?」


 なぜ、自分がそんな所を歩いているのかわからなかったが、ふと見れば、前方10mぐらい先を誰か違う人物も歩いている……どこか見憶えのあるような後姿をした男性……わたしと同じ学校の制服を着ていて、同校の生徒であるらしい……。


「……!?」


 と、その男子生徒が立ち止まると、わたしは自分の意思に反して近くの電柱の影へと身を隠してしまう……なぜだかわからないが、どうやらわたしはその男子生徒を尾行しているみたいだ。


 そうして探偵よろしく尾行を続けていると、辺りの景色はよく知る学校周辺を通りすぎて住宅街へと入り、さらにそこも抜けると閑静な山際のエリアへと変わってゆく……その辺りは山林に囲まれた別荘地になっていて、ポツンポツンとそれらしき一軒家が立っている場所だ。


 わたしがなぜか追っている男子生徒はその中の一つ、「売家」と看板のかかった家のチェーンを潜り、ポケットから鍵を取り出すとドアを開けて平然と中へ入ってゆく……。


 これ以上、追いかけるのはなんだかマズい気がする……だが、やはり意思に反して身体が勝手に動き、わたしも少し間を空けてから、おそるおそるそのドアを開いて建物に足を踏み入れてしまった。


 夕闇の迫る時間帯であったが、薄明かりで中の様子はよくわかる……まさに別荘然りとした瀟洒な洋風の造りだ。


 だが、なんの臭いだろうか? 仄かな埃っぽさに混じって、もっと嫌な臭いがわたしの鼻をかすめる……カビ臭さとも違うし……。


 洋風スタイルのため、わたしは靴を履いたまま、足音を立てないよう、ゆっくりとその廊下をさらに奥へと進んでゆく……左右には個室があるらしく閉まったドアが並び、一番奥はリビングとキッチンになっているらしい……と、その時。


「……っ!?」


 そのリビングからひょっこり男子生徒が現れ、ひどく驚いた顔でわたしのことを見つめた。


 その男子生徒に二言三言、わたしは何かを語りかけているが、彼はツカツカとこちらへ近づいて来て、そのよく見知った顔を恐ろしい形相へと一変させる。


 そして、わたしの首に両手を伸ばすと、彼はわたしを……わたしを──。





「…………」


 再び意識を失ったわたしは、カーテン越しに柔らかな朝日の差すベッドの上で、いつもと変わらぬアーラム音を耳にその目を醒ます……すべては、夢だったのだ。


 なんという夢だろう……最低最悪な寝起きである……だが、わたしはすべてを理解した。



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